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2025地球温暖化防止展で 苫小牧におけるCCS実証プロジェクトの紹介

 

 

 2025年5月28日から30日まで、東京ビッグサイトで「NEW環境展」「地球温暖化防止展」が開催された。本記事では、地球温暖化防止展で展示された苫小牧におけるCCS実証プロジェクトについて紹介する。

 

カーボンニュートラル社会の実現に必要不可欠なCCS技術

 

 空気中のCO2を回収して地中に注入するCCS (Carbon Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)は、カーボンニュートラル社会を実現するために必要不可欠となる技術だ。これは発電所や工場から排出されるガスからCO2を分離・回収して地中に送り込み、地下深くの安定した地層の中に貯めることで大気中に放出されるCO2を減らすものである。

 

 CCSは地球温暖化対策の一環として各国で導入が進められている。たとえば、アメリカでは政府の補助金を背景に民間投資が活発化し、世界最多のプロジェクト数を誇っている。ノルウェーでは世界初の商用規模のCCSプロジェクトが稼働し、イギリスやカナダでも実用段階にある。このように特に欧米諸国では、気候変動対策としてのCCSの社会実装が本格化している。

 

 

 一方、日本では経済産業省の主導による実証段階にあり、商業化には至っていない。日本は2050年までに温室効果ガスの排出を全体でゼロにする「カーボンニュートラル目標」を掲げており、これの達成に向けて苫小牧でCCSの技術的な検証と社会的受容性の確保を目的とした実証実験が進められている。苫小牧が候補地に選ばれた背景には、石油・天然ガスの開発エリアとして長年にわたる地質データの蓄積があったこと、既存の設備やインフラをCCSに転用可能だったこと、地域住民および自治体の理解を得られたことなどがある。地震大国である日本では、CCSの導入にあたり活断層による地震誘発リスクを避けるための慎重な対応が求められた。

 

苫小牧におけるCCSの実証実験

 

 本プロジェクトは2012年から始動し、2026年までを計画期間とする長期的な取り組みである。2012年から2015年にかけてはCO2を注入するための設備設計や建設、杭井の掘削などといった準備が進められ、2016年から2019年には年間10万トン規模のCO2を海底下約1,000メートルおよび2,400メートルの2つの貯留層に注入した。注入されたCO2の累計は30万トンで、2020年から2026年にかけては注入したCO2の挙動をモニタリングする。

 

 本設備で注入されるCO2は、製油所内の水素製造装置から排出されたガスからアミン溶液による化学吸収法によって分離・回収されたものを使用する。貯留層として選定された地質には、CO2を注入した際に地震を誘発するリスクがある活断層が存在せず、CO2を蓄積できる多孔質な砂岩層(貯留層)と、その上部にCO2の漏出を防ぐ泥岩層(遮へい層)が存在する必要がある。苫小牧では深度1,000〜1,200メートルに位置する萌別層と、2,400〜3,000メートルにある滝ノ上層T1部層(火山岩層)がCO2注入に適していたため、これらの層においてCO2を貯留した。

 

 注入後のモニタリングは主に音波探査によってされており、CO2の漏出や広がりといった挙動を監視している。海洋環境への影響も調査対象としており、これまでのところCO2の漏出や微小振動・自然振動などの異常は観測されていない。これにより、安全かつ安定的にCO2が注入されたことが確認されている。また、担当者によるとCO2を注入した地点から30キロメートルほど離れた地点で地震が発生したが、この地震とCO2注入には因果関係がないこと、地震の影響でCO2が待機中に漏出していないこと、地中のCO2の分布に変化がないことが確認され、CCSの安全性に関するさらなる知見が得られたとのことだ。

 

画像引用:経済産業省「CCS事業化に向けた先進的取組」

 

 本プロジェクトの成果により、日本でもCCSが安全に適用可能であることが実証された。現在は事業化を見据えて全国9ヵ所で新たなプロジェクト立ち上げが検討されており、各地域において石油開発事業者とCO2排出源となる電力会社などの連携が模索されている。これらの計画は2030年の商用開始を目標に準備が進められている。

 

 なお、地下に注入されたCO2は地層と化学反応を起こし、最終的には1千年から1万年程度をかけて鉱物化されると考えられている。一方、アイスランドで2021年9月に運転を開始した「Orca(オルカ)」プロジェクトによると、地下の玄武岩層にCO2を注入することで、わずか2〜3年で炭酸塩鉱物へと固定化することが見込まれている。アイスランドも日本と同様に火山活動や地震が活発であるが、地質的な特性により短期間でのCOの鉱物化が可能であり、安全な長期貯留が実現している。

 

 欧米諸国でCCSの商用化が進む背景には、炭素税の存在がある。CO2排出に対する課税とCCSに要するコストを比較しながら、民間投資が成立する仕組みが整っているのだ。今回の苫小牧の実証実験を通じて技術的な可能性と安全性が確認されたことは、大きな一歩である。一方で、日本で本格的な商業稼働に向けてはコストの課題解決を目的とした政府による制度設計や補助金の導入、さらには地域住民・自治体の理解と協力が不可欠である。また、地震が多く国土が狭い日本では、欧米のように大規模かつ集約的なCO2貯留を進めるには限界があるため、今後は地域ごとの地質条件や産業構造に即した分散型・多拠点型のCCS導入が現実的な選択肢となるだろう。脱炭素に向けた移行期において、CCSは再生可能エネルギーと並ぶ現実的な選択肢の一つであり、今後の制度整備や民間投資の動向に注目していきたい。

 

 

(IRuniverse Fushimi)

 

 

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