2025地球温暖化防止展で 再生可能エネルギーの取り組みを紹介
2025年5月28日から30日まで、東京ビッグサイトで「NEW環境展」「地球温暖化防止展」が開催された。本記事では、地球温暖化防止展で展示された再生可能エネルギーに関する取り組みについて紹介していく。
脱炭素社会を足元から支える地中熱エネルギー
地中熱利用促進協会は東京ビッグサイト東4ホールにおいて会員企業と共同でブースを出展し、地中熱利用に関する最新技術や導入事例を多数紹介した。
「地中熱」とは、同じ再生可能エネルギーである「地熱発電」とは異なる技術である。地熱発電が地下深く(1,000〜3,000メートル)の高温蒸気や熱水を利用して発電するのに対し、地中熱は地表近く(10〜200メートル)の年間を通して安定した地温(15℃前後)を活用するものである。この地温と採熱管を流れる循環水との熱交換により、冷暖房、給湯、融雪、温水プール、さらには農業用ハウス栽培など、さまざまな用途で活用が進んでいる。
地中熱の利用方式はヒートポンプシステム、空気循環式、伝導熱利用、ヒートパイプ方式に大別され、目的や設置条件に応じて最適な方式が選定される。実際の導入例としては、東京オリンピック・パラリンピック関連施設、横浜市庁舎、東京国際空港国際線ターミナルなどの大規模施設が挙げられ、全国では8,761件の利用実績を数える。
地中熱はエネルギーの地産地消を実現でき、持続可能な社会の鍵となり得るため、環境省も地中熱活用の普及に向けたガイドラインの整備や補助制度の充実を通じて導入拡大を図っている。
各社の取り組み
株式会社イノベックスが特許を取得している「ヒートクラスター工法」は、井戸内に採熱管を挿入して内部の水と採熱管との間で熱交換を行う間接熱交換方式である。この工法は従来の地中熱工法と比較して4〜5倍の性能を発揮でき、ピーク時には冷暖房の消費電力を約1/5、年間では1/2にまで削減可能となる。
地中熱の利用は日本国内ではまだ一般的とは言えないが、アメリカや中国では広く活用されており、一部地域では新たに建物を建設する際に地中熱システムの導入が義務化されている例もある。日本における普及の障壁はその知名度の低さと初期コストの高さで、特に1カ所あたりのボーリング費用が数百万円となる点が参入障壁となっている。
さらに、都市部では地下鉄や上下水道、各種インフラ設備と干渉しやすく、地中熱システムの導入が技術的に難しい。現時点では、スペースが確保しやすく地中条件の把握もしやすい地方の工場施設などを中心に導入が進められている。
担当者によれば、地中熱利用に関しては一定の補助制度が整備されているものの、初期費用は一時的に全額自己負担となり、補助金の交付までには一定の時間がかかる点も導入をためらう一因となっているという。今後は政府に対して地中熱の有用性を積極的に訴え、制度的な理解を促すとともに、補助金の使いやすさや資金繰りの支援といった実務面での改善が求められるとのことだ。
株式会社バイオテックスは再生可能エネルギー分野に注力する土木工事会社であり、特に地中熱利用におけるヒートポンプシステムの施工に実績を持つ。主に採用しているのは「クローズドループ方式」と呼ばれるもので、これは深度100メートル程度まで掘削した地中に設置した熱交換機に不凍液などの熱媒を循環させ、ヒートポンプを介して熱交換を行う仕組みである。この方式は地下水の有無などに左右されず、幅広い場所に設置可能という利点がある。
熱交換に使用する配管には、高密度ポリエチレン製の「U-ポリパイ」が用いられており、50年以上の耐久性を持つことから、長期間にわたる安定運用が可能である。
同社は佐賀県の果樹試験場、SAGAサンライズパーク、八女市新市庁舎など、公共性の高い施設における施工実績を積み重ねており、これらの実績は同社の技術力と信頼性を示している。また、2026年には本社部門におけるカーボンニュートラルの達成を予定しており、地中熱をはじめとする再生可能エネルギーの普及を通じた持続可能な社会の実現に貢献するとのことだ。
地中熱は地下数十〜数百メートルの熱容量が非常に大きい地層と熱交換を行うため、適切な設計と運用をすれば半永久的に利用可能な再生可能エネルギーとなる。そのため、脱炭素社会の実現に向けて高いポテンシャルを持ち、世界的に注目されている。
特に農業分野においては、ハウス栽培で従来用いられてきた重油ボイラーと併用する形で地中熱を利用した熱交換システムの導入が進んでいる。これにより、温室効果ガスの削減に大きく貢献するだけでなく、重油の使用量を抑制し、運用コストの低減という複合的な効果も得られている。
一方で、国内における地中熱利用のさらなる普及にはいくつかの課題も存在する。まず、技術や仕組みに対する一般的な認知度がまだ低く、導入のメリットが十分に理解されていない。加えて、初期コストの高さが参入障壁となっており、特に中小規模の事業者にとっては大きな負担となっている。また、都市部においては地下空間が高度に利用されており、地中熱システムの密集配置によって相互干渉が生じる可能性がある点も留意すべきである。これらの技術的・制度的課題を解決しつつ、補助制度の拡充や制度整備、適切な情報発信を通じて、地中熱の利活用を促進することが求められている。
耕作放棄地を再エネ拠点にする中山鉄工所の小水力発電モデル
株式会社中山鉄工所は河川や農業用水などの小規模な水流を活用した小水力発電システムを提供することで、再生可能エネルギーの推進と地域活性化の両立を図っている。小水力発電とは流量や落差を活かして電力を得る水力発電の一種であり、一般に発電出力が1,000kW以下のものを小水力、あるいはマイクロ水力発電と呼んでいる。同社が手がけるシステムは落差10〜100メートル、流量0.02〜0.6立方メートル毎秒の条件下で稼働する19.9kW、30kW、49.9kWの小型発電機を主力としている。
これらの発電装置は従来機と比べて大幅に小型化されており、鉄道用コンテナ1台に必要な機器一式を搭載して輸送できる点が大きな特長である。国内で展開されている小水力発電機の中では最小クラスに属し、現地での設置作業は1日、試運転も1週間程度と短期間で完了するため、導入のハードルを大きく下げている。
同社のビジネスモデルは耕作放棄地や小規模河川といった未利用資源を活用し、得られた電力を電力会社へ売電することで収益を得るというものだ。地域条件にもよるが、初期投資は概ね7〜13年で回収可能なスキームとして設計されており、持続可能なエネルギー事業としての採算性も確保している。実際の導入事例として、佐賀県吉野ヶ里町松隈地区では地域住民が株式会社を設立し、小水力発電による売電事業を展開。その結果、地域収入は従来の約2倍となり、地域復興のモデルケースとして注目されている。
同社の発電システムは水車をインドネシアから調達し、その他の制御機器や配管部品などは国内メーカー製を採用。これらを自社で組み立て、また導入に向けて現地の水路状況や水量に応じた最適な設計提案を担っている。担当者によると、導入時の最も大きな障壁は水利権の取得であり、特に河川の水を利用する際は発電後に水を元の水路に戻すとはいえ、地域住民の理解を得るには丁寧な説明と調整が必要とのこと。一方で、耕作放棄地のような農業用水を用いた事業では水利権の調整が比較的容易であるため、普及しやすい形態となるそうだ。
現在、日本では大型ダムの新設がほぼ完了しており、これ以上の大規模水力発電の拡大は難しい。そのため、水力発電の主戦場は小規模で分散型の発電が可能な小水力発電へと移行しつつある。中山鉄工所はこうしたニーズに応える形で、コンパクトかつ導入容易な発電機の開発・供給することで再生可能エネルギーの拡大と地域経済の再生という二つの社会的課題に対し、貢献していく考えだ。
地球温暖化展における再生可能エネルギー関連のブースは、展示全体の中では比較的小規模であったが、そこに集められた取り組みの多くはすでに実用化されており、現実的なポテンシャルが存在することを実感した。
日本の地形や国土の制約を踏まえると、欧米で見られるような大規模な風力発電施設の建設は難しい。そのため、国内では小規模でありながら設置の柔軟性が高く、地域ごとの条件に応じて効果的に導入できる再生可能エネルギー技術への期待が高まっている。今後は、こうしたエネルギーの地産地消の取り組みを支える制度整備や情報発信や地域レベルでの導入について注視していきたい。
(IRuniverse Fushimi)
関連記事
- 2025/06/05 原油価格の動向(6/4)
- 2025/06/04 環境省 中央環境審議会循環型社会部会(第60回)の開催を告知
- 2025/06/04 TRE 使用済太陽光パネルのリユース・リサイクルに関する協定書締結
- 2025/06/03 自動車リサイクルサミットⅣ 講演者紹介: 株式会社プラニック 代表取締役 山下晴道氏
- 2025/06/03 2025地球温暖化防止展で 苫小牧におけるCCS実証プロジェクトの紹介
- 2025/06/03 新都HD カンボジア首相と会談、金属輸出と環境協力で合意
- 2025/06/03 三和油化工業(4125) 25/3期決算説明会メモ 電池、半導体の低調でニュートラル継続
- 2025/06/03 ポーランドFORS会議より:ELV規則案:トレーサビリティと情報共有こそが鍵
- 2025/06/03 伊藤忠 サステナビリティサービス会社「PT PROJECT TREE INDONESIA」設立
- 2025/06/03 DOWAエコシステム 新リサイクル事業の複合拠点建設で栃木に工業用地取得