多角的な金融サービス業を展開するオリックスは集合住宅などの改修工事で廃棄されるアルミ窓全体の水平リサイクルを開始した。窓ガラスとアルミサッシ双方の水平リサイクルを可能としただけでなく、経済的に持続可能なスキームを構築しており、循環経済の確立に向けた模範事例となることが期待される。環境エネルギー本部環境事業推進部サーキュラーエコノミー推進チーム長を務める中村育美氏に同件の特徴や今後の展開を聞いた。
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――アルミサッシだけでなく、ガラスも含めた水平リサイクルを実現した
今回オリックスがアルミサッシおよびガラスメーカーの思いを的確に捉え、リサイクル事業者、加工業者、メーカーとの協業全体のマネジメントを行い、アルミサッシと窓ガラス、双方の水平リサイクルを可能とした本スキームを構築した。
アルミサッシは従前から資源として高値で取引され、資源循環されているが、サッシメーカーに戻る循環が作れたこと、それに加えガラス部分と合わせて、各社の経済性を担保した上でアルミ窓全体の水平リサイクルを実現できたことが大きな成果であり、価値のあるスキーム。当然、アルミ、ガラスともに原材料は輸入に依存していることから、環境への負荷軽減だけでなく、地政学的なリスクの軽減にも貢献しているといえる。
――アルミサッシと窓ガラスの水平リサイクルの課題は
アルミは高値で売却できることから使用済みのサッシのニーズは高く資源循環もされる。一方、廃棄されたものがどのようにリサイクルされたのかをトレースすることが難しいという課題があった。
一方で、ガラスは元の状態には戻らず、水平リサイクルは難しいとされているため、窓ガラスのほとんどが現場で割られて埋め立て処理されるか、再利用される場合でも製品としての品質が下がるカスケードリサイクルが限界とされていた。
――今回の取組の特徴は
グループ会社である廃棄物処理を行うオリックス環境でも、従来アルミ窓から分離したアルミサッシは圧縮してからリサイクル業者に売却し、ガラスは埋め立て処理をしていた。従来の運用で収益確保してきているので、水平リサイクルに貢献したい思いがあっても、収益悪化するのではないかという懸念があった。ここでサーキュラーエコノミーの推進が止まることは多くあると思う。
今回はオリックスにより、メーカーの意向はもちろんのこと、それぞれの加工業者及びリサイクル事業のオリックス環境の意向も尊重し、協議を重ねたことで各社に新たなコスト負担を強いることなく、経済的に持続可能な水平リサイクルスキームを構築することができた。これが今回の取り組みの大きな特徴であり、経済性を担保したアルミ+ガラスの水平リサイクルは国内初の事例であると認識している。簡単なようでここが実はとても難しく、誰にでもできることではない。サーキュラーエコノミーに対する社会の関心が高まるにつれて、国内で同様の取り組みも増えてきているが、運用コストが利益を上回っているが企業努力により推進されているケースが多いと思う。
また、それぞれのメーカーへ資源を戻し水平リサイクルを確立できたことにより、それぞれの素材における水平リサイクルの課題解決に貢献できる点において大きな意義があると考えている。

オリックス発表リリースより引用
――今回の取組の背景は
そもそもは、「太陽光パネルのリサイクルをどうすべきか」という議論がこの取り組みの出発点だった。使用済み太陽光パネルの廃棄が本格的に始まるのはまだ先になると見込まれるため、まずはできることから着手しようという話になり、グループ会社であるオリックス環境が扱っていた“窓(サッシ+ガラス)“に着目した。
特にガラスの水平リサイクルは難しいという固定観念が強かったように思うが、メーカーのリサイクルに対する意識が変わりつつあることをオリックスがタイムリーに且つ的確に捉え、リサイクルサプライチェーンの各社の課題を擦り合わせることからプロジェクトは始まった。オリックスの役割は全体のマネジメントであり、運用面を担う、立場の異なる各社を繋ぎ、慎重に協議を進めたことで今回のスキーム構築に至ることができたと自負している。
――今後の課題は
やはり、リサイクル対象であるアルミ窓をこのスキームにのせられるようにどのように回収するのかが一番の課題。水平リサイクルは手間・コストがかかり経済合理性が合わないことが多いが、今回のスキームを広く知って頂くことにより、本取組に賛同いただける企業を増やし取組を推進していきたい。
将来的には同取り組みを異なるエリアへ横展開することを模索している。対象エリアが変われば どこからどのように対象物を回収するのか、どのようなメンバーでスキームを構築するのか、また新たな課題が生じる可能性もある。それらを解決するために、今回はオリックス環境との協業であったが、グループ会社に限らず他の事業者とも積極的に協業していきたいと考えている。

――社会全体でみた、非鉄金属リサイクルの課題についてはどう認識しているか?
サーキュラーエコノミー推進チームが立ち上がってからまだ2年しか経っておらず、素人に近い立場での意見にはなるが、非鉄金属が高く売れるところに流れており、その後の行方が分からないのが現状だと理解している。どこかで資源循環されていれば、例え海外に流れていたとしても悪いということは決してない。ただ、先ほど申しあげた通り、地政学リスクなども考慮すると国内のクローズドなループでの水平リサイクルをこれまで以上に推進する必要があると考えている。
とは言え、「安く売る(収益を圧縮する)ことになるが、サーキュラーエコノミーを確立するために、協力してほしい」などとお願いされても到底受け入れられないのも理解している。グループ会社だからといって、オリックス環境にそんな一方的なお願いをしても受け入れてはくれない。それは企業として当然の判断だと思い、だからこそ、今回のアルミ窓の水平リサイクルの取り組みのように、お金やモノの流れをしっかりと把握したうえで、経済性が担保されたスキームを構築することの重要性をひしひしと感じている。
――サーキュラーエコノミーを推進するうえで、どのような環境整備が必要だと思うか?
サーキュラーエコノミーを推進するうえでの共通の課題はなんといってもコスト。今回のガラスやアルミは経済性を担保することができたが、現状それができない素材、製品も多く、資源循環に必要なコストを誰が負担するかといった問題が必ず出てくる。その時は、設備投資にかかるイニシャルコストへの補助のみならず、サーキュラーエコノミー推進するリサイクル事業者のランニングコスト(作業コスト)への補助や、再生材料を仕入れる際の補助も有効だと思う。
もちろん、補助金が途絶えたら立ち行かなくなる循環ではいけないが、まず国が金銭的支援を行うことで商流が広がり、サーキュラーエコノミー推進のコスト全体が引き下がることも十分に期待できると考えている。
――最後に
当社は2025年3月期の決算時に発表した長期ビジョンの中で、「『地球温暖化・限りある資源』をテーマとし、これらの課題に対してポジティブなインパクトを与える」ことを重要戦略の一つとして掲げている。そのため、今後もアルミ、ガラスに限らず、幅広い領域でのサーキュラーエコノミー推進に注力し、あらゆる可能性を模索していく方針。
オリックスグループのもつ廃棄物処理業の経験やノウハウ、膨大なグループネットワーク、グループの幅広い事業展開における様々な業種・業態の企業とのリレーションの活用により、業界の枠を超えた様々なサーキュラーエコノミーの推進が可能だと感じている。何かアイディアや要望があればお気軽に問い合わせいただきたい。
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中村 育美(なかむら・いくみ) オリックス株式会社 サーキュラーエコノミー推進チーム長
2007年オリックスに入社し、京都支店に配属。大阪メディカル営業部、電力事業部エネルギーソリューション営業チームを経て、2023年3月環境事業推進部サーキュラーエコノミー推進チーム長に就任。
(IRuniverse K.Kuribara)