遺伝子の世界を変えたクリスパー・キャス9の3人の女性
人間の遺伝子も大腸菌の遺伝子も全く同じ仕組みだと聞いて生物学に疎い筆者は少し驚いた。40年前に大腸菌が好むブドウ糖を与えていたが同時に乳糖を与えてもブドウ糖以外は食べなかった。しかしブドウ糖を止めて乳糖のみにして暫くは、乳糖を食べなかった大腸菌が乳糖を食べ始めた事が、世界の遺伝子の研究者にとって大発見となった。
この大腸菌の実験で判った事は、これまでブドウ糖を食べていた事に関係する遺伝子のスイッチが切れて、乳糖を食べる遺伝子にスイッチが入った事を意味すると。
人間の遺伝子情報は3億の情報量で構成されて、1,000ページの本が1,000冊になる情報量だと、著書「生命の暗号」で1997年に村上和雄先生が記している。
今気候変動に対処する技術の研究として、土壌中から発生するメタンガスが年間3,400万トンにもあり、それの大半が水田から発生している。雨季に水を張った水田の土壌にメタンガスが蓄積し、乾季にそれが放出される。年間1.1億トンのアンモニアが肥料として世界で使用され、世界の穀物生産へアンモニアは50%の寄与をしており、アンモニア生産で排出される温暖化ガスの1-2%に相当する。
米国カルフォルニア大バークレー校ジリアン・バンフィールドJill Banfield教授は、エコシステム科学者で、2006年にDNAの配列が神秘的に繰返されている事に興味を持った。と言うのは、彼女の専門分野の知識では、特異なDNAの繰り返し配列は非常に稀で、地球上で極めて極端な環境、例えば深海の熱の吹き出し孔や、酸の鉱山、や、アイスランドの間欠泉などの微生物のみに特異なDNAの繰り返し配列が見られたからだ。
Jill先生は、バイオケミカルの専門家にこのDNAの特異な繰り返しの説明をして貰おうと、専門家を探した。彼女はウエブサイトで専門家を探した所、見つけた専門家が同じ加大のバークレー校のジェニファー・ダウドナJannifer Doudna教授であった。その時にジェニファー女史はCrispr/Cas9の事を知らなかった。ジェニファー女史は、ハーバード大学のジャック・W・ショスタック先生(ノーベル賞受賞者)の下で生化学の博士号を取得して2002年バークレー校の教授となっていた。
ジェニファー・ダウドナ教授は、初めてジリアン・バンフィールド教授からCrispr/Cas9が遺伝子編集技術である事を知った。
不思議な出会いは続く。ジェニファー・ダウドナ教授は2011年にプエルトリコで会った女性と一杯のコーヒーを飲んだ。その女性はエマニエル・シャンパンティエと言いフランス・ソロボンヌ大出身の科学者で、当時はスウェーデン分子感染症研究所長で、二人の女性は一緒に珈琲を飲んだ偶然の出会いから共同研究が始まった。
Crispr/Cas9は、分子ツールでタンパク質分子と拡散分子の複合体で、ゲノムDNAの2本の鎖を切断したり、貼り付けたりする操作が簡単に出来る遺伝子の改変技術で、2012年エマニエル・シャンパンティエとジェニファー・ダウドナの二人がCrispr/Cas9の成果を発表して、遺伝子分野の研究は画期的な発展をした。
エマニエル・シャンパンティエとジェニファー・ダウドナの二人は、2020年ノーベル化学賞を受賞した。研究を開始して僅か10年未満で大きな成果があらわされた。
最初にジェニファー・ダウドナへCrispr/Cas9を知らせたジリアン・バンフィールド先生は、今も稲作の水田から発生するメタンガスの削減を研究している。土壌はバイオサイエンスでは最も難しいテーマであるが、Crispr/Cas9の技術により、稲の研究も加速している。
稲は130,000種類もあり、その稲の改良でメタンガスの発生を抑制した稲の研究で、既に収量を格段に増加する稲の栽培で、メタンガスの発生削減に成功し、更に稲のストローをバイオ技術でバイオチャーとして土壌中へ戻す技術でCO2排出の抑制など、インドやバングラディッシュで改良された稲を栽培する技術を採用する農家が5百万戸まで達している。ジリアン・バンフィールド先生の業績にも注目したい。
日本では、近畿大学がCrispr/Cas9の論文が発表された翌年2013年から遺伝子編集技術に注目して、2014年から鯛の筋肉量を増したマッチョの鯛を作り成果をあげている。京大の山中伸弥先生もCrispr/Cas9技術が確立された事で、研究が容易になり、研究の量とスピードが数倍増したと語っている。
参考:
・化学Vol.75 No.12(2020)ゲノム編集の”ゴールドスタンダード“CRISPER-Cas9が拓く未来、ウイキペディア:ジェニファー・ダウドナ、「生命の暗号」村上和雄著、Climate News Today,Jan.4,22
(IRUNIVERSE Katagiri)
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