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湾岸に忍び寄る中国 脱ロシア後の石油争奪戦は激しく…

ウクライナ問題にアメリカがかかりきりとなり、各地で“米国不在”とも言える状況が生じている。アメリカの安全保障に依存してきた湾岸諸国も生き残りを賭け、活発な外交活動を展開する。こうした中、中国が湾岸諸国に急接近している。米中対立が激しさを増す中、アメリカの伝統的勢力圏を引っ掛き回そうとする一方、14億の人民生活を安定させるためエネルギー確保の多角化も図る。中国は、この間イランからの原油輸入を増やし、ロシア産原油輸入についても堂々と宣言しているが、それを継続するかはアメリカの出方次第という現実もある。中国としてもロシア依存は避けたい。西側諸国と同様に、湾岸に目が向くのは自然なことだ。

 

尤も中国はウクライナ危機以前から、湾岸で密かに橋頭堡を築こうとしていた。昨年、中国はUAEの港で軍事施設を秘密裏に建設しようとしていたことが明らかになった。アメリカが繰り返し懸念を伝えたことで、UAEは渋々、建設を中止させたというが、アメリカ軍基地がある国に中国が浸透しようとしていたことへの衝撃は大きい。両国は、公式の外交の舞台でも交流を深めている。

 2月、習近平はアブダビまで出向き、皇太子ムハンマド・ビン・ザイドと会談し、投資・経済分野を中心に両国関係を発展させることを確認したとされる。独自外交を繰り広げるUAEは、アサドを自国に招いて会談する、対ロ制裁に参加しないなど、アメリカ政府の神経を逆なでするような行動を続けている。それだけ、UAEにとってアメリカはもう遠慮する必要もない存在になっているのだ。実際、経済面で中国の重みは増すばかりである。UAEの対外貿易部門トップは中国側との会合の中で、非石油部門の貿易において対中貿易が12%を占めると述べ、中国は重要な戦略的パートと協調した。

 さらには、UAEは3月、中国製の軍用機購入を明らかにし、世界を驚かせた。UAEは全方位外交を基本としており、パキスタンやカンボジアなどのように中国べったりとなることはないだろうが、前述の「秘密基地」の一件のように裏で味方の敵とつながり、大国を手玉に取ろうとする油断ならない国だ。

 

 中国は、長年アメリカの同盟国でありつつも、最近はすきま風が吹くサウジにも近づいている。トランプ時代は、サウジの実権を握る皇太子ムハンマド・ビン・サルマン(通称:MBS)と大統領との個人的な蜜月により紐帯をつないでいた。バイデンに交代するとその糸もぷっつり切れたように交流は減り、未だ、対面での首脳会談も実現していない。

 それどころか、バイデンによる“電話”を取らなかったことで多方面を騒がせた。バイデンがウクライナ危機を巡るエネルギー問題について協議しようとしたのを、MBSは突っぱねたのである。MBSは最終的に“電話”を取ったそうだが、両首脳の大きな溝を世界に示した。MBSは、「バイデンが私について誤解しようが構わない」と強気な姿勢を見せているが、サウジの存立に関わる同盟国との関係悪化に内心焦りもあるだろう。中国は、そういった機会を逃さない。

 

 3月22日、中国外交部は、王毅がイスラマバードにおけるムスリム諸国の会合のついでにサウジ外相と会談したと発表した。王毅は、「中国に関わる問題に対する貴国の公正な姿勢に感謝する」などと述べたとされる。MBSもまた、バイデン政権による人権問題への追及に怒りを高めている。そして、先月15日、トップの習近平とMBSが電話会談を実施し、両国関係のさらなる発展について合意したと伝えられた。サウジは、アメリカにさらに重大な挑戦を仕掛けようとしている。国企業に対し、米ドルでなく人民元での石油代金の支払いを認めようと検討しているというのだ。対ロ制裁で当事者のロシア、中国は金融兵器としての米ドルの強さを改めて思い知らされた。MBSは、その堤を崩すアリの穴を作る行為に加担しようとしているわけである。MBSは、その「暴れん坊」ぶりで知られるが、一連の行動がアメリカに対する子供じみた必死のアピールなのか、はたまた、UAEのようなしたたかな外交を展開しているのかは定かではない。

 

世界がコロナ規制の真っ只中にある時には、北海ブレント原油が1バレル=30ドルを割り込むなど石油価格の低迷は永続的なトレンドに見え、湾岸諸国の地位もまた、油田発見以前の誰も気に留めない砂漠地帯に相応しいものに回帰していくように見えた。しかし、ロシアがウクライナへ本当に侵攻するという暴挙に出て、そのロシアが供給してきた巨大な化石燃料を締め出す必要に迫られた時、湾岸など産油国は再び熱い視線を向けられることになった。

 そして、湾岸諸国、とりわけ本稿で言及した国々はいずれも王政かつ、人権侵害大国として悪名高い。アメリカが「専制主義国家」と位置づける中国とは、非民主的という意味で価値観を共有している。そして、王族は常に反乱、下剋上を恐れており、中国の監視システムなどは垂涎の的である。化石燃料を求める西側諸国は、湾岸諸国の体制に“相性のいい”中国と天秤にかけられることになることを覚悟しなければならない。

 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指している。

 

 

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