現状LIBの改善点から革新電池の研究まで 電池一筋40年 東京都立大学 金村聖志氏 熱い想いを語る
2022年10月5日、MIRU取材チームは東京都立大学 大学院都市環境科学研究科の金村 聖志氏の研究室にお伺いをし、インタビューを行った。金村先生は電池研究一筋40年で年明け2023年1月31日の弊社主催のBatteySummit2023にも登壇が決まっている。
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(金村先生の研究室にて 左:金村先生 右:MIRU片桐 撮影 棚町)
リチウムイオン電池の改善点
世界中で脱炭素の流れがある中、あらゆるモビリティの電動化が進められているためリチウムイオン電池(LIB)に代わる次世代電池について注目が集まっている。しかし、金村先生はポスト・リチウムイオン電池へ焦点を当てる前に現リチウムイオン電池にもまだまだ改善点がある、という。
リチウムイオン電池はまだ完成形ではない
全固体電池は発火のリスクが低いこと、幅広い温度域で安定して性能を発揮できること、長寿命であることなどが利点とされていたが、実質は当初思われていたより寿命が長くはないということが分かってきて、商品化までにはまだ時間を要するという。また、粒子同士の接触状態が変わっていくという問題点もあるという。
既存のLIBでも全固体でも、少なくとももっと電池寿命を延ばさないと、EV車において真の意味でのCO2削減にはつながらないのだと金村先生は説く。
安全性、エネルギー密度、出力密度において現状のクオリティを担保した仮定のもとで、まず寿命を延ばすこと、そして耐熱温度を高めないといといけないという。
つまり既存のリチウムイオン電池における改善点は次の2点である
① 耐熱性を上げること
② 長寿命化
① 耐熱性を上げること
現在EV車ではリチウムイオン電池の耐熱可能な温度は約45度であるため、水冷や空冷、タイプの冷却装置で45度以上に上がらないように物理的に冷ましている。
しかしLIBの耐熱温度が60度まで上がれば冷却の必要がなくなるためバッテリーの容量を小型化できることが技術的に可能であると金村先生は話す。
また、60度の高温耐性が保てれば、熱帯地域など気温が高い地域でもEV車が走れるようになるというメリットもある。また逆に寒冷地でも使用できるようになる。つまり既存LIBの耐熱領域を広げることができればあらゆる地域で安全、安心でLIB搭載のEV車を使用することが可能になるのである。
② 長寿命化
現在でも既存LIBの1.5〜1.7倍の長寿命化は技術的に可能であるとのデータは出ているという。おそらくこのままいくと寿命を2倍ほど延ばすことは可能であるとのこと。
しかし一方で、長寿命化が可能になれば原材料費は高くなるというデメリットがある。ただ、電池の長寿命化で電池のランニングコストは低くなりトータルコストは抑えられる。さらに電池交換時のCO2排出も低減させることができる。
全固体電池では?
全固体電池で約90度の耐熱性を目指している。EVでの電池パック体積が半分になるというが、特殊な電解質を使うため、現在よりコストがかかってしまい、これでは電池コストに見合わないので現実的には難しいかもしれないが、研究の方向性はそちらに向かうのではないかというのが金村先生の見解だ。
中間的な目標としてリチウムイオン電池の上記2点の改良の研究が大事になってくるだろう。
エネルギー密度が上がることは、実際に必要な資源をそのままにパフォーマンスがあがるため資源ココストも抑えられる。
日本のリチウムイオン電池の技術は最高なのに、
マーケットシェアが中国・韓国などに負けているのはなぜなのか?
この疑問点に対し、金村先生は日本の経営者スタイルに問題があると指摘する。
日本の大企業の経営者はリスクが取れない
日本の経営者は発案から商品化までの工程の中で、見切り発車で物事を進めることが大変苦手であり、技術的に問題点があるかどうかのテストに時間をかけすぎるためマーケットインが遅れてしまうのだという。
製造過程では失敗も沢山起こる。その失敗から成功に至るまでパーフェクトにしようとする、日本人の石橋を叩きすぎてしまう性格が悪く作用していることと、新商品、新技術の失敗を許さない潔癖な国民性(世論)もある意味では日本で新しい市場を作ることを難しくしている一因でもあろう。
日本にベンチャー企業が育たないこともこうした風土、世論がネックとなっているのではないか、と金村先生は論破するがまさに正鵠を射ているように感じる。
例えば、イーロンマスクが日本でテスラを立ち上げたら、今の成功はなし得なかっただろう。
EV普及とCO2フリーのLCA
一家に一台蓄電設備を置く未来が来るのであろうか。
現状のように従来のガソリン車を否定し、EVに切り替えることを善とする流れは、正しいのだろうか。そして電池の材料資源がボトルネックになっているため全ての自動車をEVへ移行することはそもそも不可能ではないか。
従来通り鉛バッテリーのガソリン車、およびハイブリッド車も残るであろうと金村先生は語る。現状の日本の電力需要を考慮すると、ハイブリッド車が一番ではないだろうか。カナダ、ノルウェー、スウェーデンのような水力発電を主とする国であれば、EVがCO2削減につながるというのも頷けるが、アメリカ、中国、日本のように火力発電に依存している国においてはEV車に切り替えることがCO2削減につながるとは言えないだろう。なにもかもEVへというのはあまりにも早計ではないだろうか。
しかし、火力発電の割合が少なくなるとこの話も覆ってくる。直近の20年30年は原発を動かさないと間に合わないだろうという議論がなされているため、電力需要の比率が変わる可能性は高い。
ところが原発は自然界のものではないため、稼働する場合は原発を潰す際の計算数値までを考慮しないといけない。そのあたりの数値もまだ出ていないため、こちらも議論が必要なテーマである。
国家レベルでCO2フリーのライフサイクルアセスメント(LCA)の設計図を作り、それをもとに動くことが最善であるが、まだその指針となる設計図ができていないのが現状だ。
垂直統合がベスト 電池業界ビジネス構造の変化
電池材料を研究しているLIBTEC(理事長は吉野彰氏)にも参画している東京都立大学および金村先生ではあるが、同時に日本の電池業界についても伺ってみた。
理想はM&Aで大きな2社くらいに統合し、電池会社が素材メーカー、自動車メーカーへ一つ一つアプローチするのではなく、エンドユーザーまでつながる垂直統合のスタイルにするのがベストだという。株式会社プライムプラネットのようにエンドユーザーと電池メーカーがつながっているスタイルがとても望ましく、実際にポジティブな結果も出ているそうだ。
これまで電池メーカーは消費者とつながるB to Cのビジネススタイルであった。しかしこれからは、自動車メーカーに対象が移り変わりB to Bへビジネス構造が変化していくだろう。こうした変化をどのように受け入れていくかが課題点になりそうだ。
中国・韓国への技術的指導、現状は?
また、知的財産保護という観点について大学、研究者の在り方についても聞いてみた。
現状は中国への技術指導は完全に国から止められている。韓国、インドでは許されており、インドではすでに会社と一緒に技術的指導をはじめているという。
実際に技術的支援を行う場合は、大学へ提出する書類が必要だという。知的財産の問題をケアするため書類には結構な項目数があり、技術移転なのか開発をともなうものなのかなど、具体的な内容についても明記しなければならないという。
中国、韓国には日本の大学を卒業している人もいるため友人関係、師弟関係の間柄の人もいる。
個人的な人間関係が介在するとどこまでケアができるのかという問題はあるが、現状は大学が監視役として知的財産を守っているとのこと。
(東京都立大学)
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田中鮎子(Ayuko Tanaka)
将棋と旅行とYoutube動画作成が趣味。ちなみに将棋で好きな戦法は居飛車穴熊です。自動車販売店に勤めていたことのあり、自動車のEV化、電池業界と世界のカーボンニュートラル、ガイア理論に大変興味をもっています。
新しい知識を学ぶことやたくさんの人と出会うことが好きです。全く人見知りしないことが取り柄。
ハーブティーとチョコレートが最高のリラックスアイテム。
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