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あたかも生体骨として振る舞う骨代替新金属材料の開発に成功@大阪大学

 大阪大学大学院工学研究科の中野教授らの研究グループは、レーザーを熱源とする金属3Dプリンティングとチタン含有バイオハイエントロピー合金(BioHEA)の組み合わせにより、骨代替用バイオマテリアルとして人工関節等に適用可能な新金属材料の開発に成功した。さらに本成果は、高温耐熱材料にも拡張することで航空・宇宙材料の力学特性カスタム化にも応用可能。

 

 開発した新金属材料はチタン、ジルコニウム、ハウニウム、ニオブ、タンタル及びモリブデンで構成される6元系・非等原子数比BioHEAである。

 

 本研究開発は、世界的に注目されている最先端の合金系であるBioHEAと、最新鋭のものづくりプロセスであるレーザ金属AM法を掛け合わせた 『BioHEA×レーザ金属AM』 をコンセプトとして、マクロな相分離のスケールダウンを図ることで、原子レベルの強制固溶強化を実現し、超高強度・高加工性を付与すると同時に、結晶配向化を達成することで低弾性特性を発揮させるという、先駆的な着想の下で推進された。

 

 同組成の鋳造ハイエントロピー合金(HEA)と比較して、加工性を保ちつつ、約1.4倍の強度(1,300MPa超)を記録した。金属3Dプリンティング(Additive Manufacturing;AM)による本新金属材料は、骨代替用バイオマテリアルとして、人工関節、脊椎スペーサー、骨固定デバイス(ボーンプレート)などに適用可能であり、あたかも骨として振る舞う骨デバイスとしての新展開が期待されている。

 

 ハイエントロピー合金(HEA)とは、通常は5種類以上の金属元素が等原子数比に近い割合で配合される超多成分合金。中野教授らは2017年に生体為害性(毒性)元素を含まない5元系・等原子数比Ti-Zr-Nb-Ta-Mo系生体用ハイエントロピー合金(BioHEAと命名)の創製に世界に先駆けて成功している。今回は、6元系・非等原子数比Ti-Zr-Hf-Nb-Ta-Mo BioHEAを、綿密な配合割合の調整により設計することで、背反する多機能性の同時発現を実現した。

 

 金属3Dプリンティング(Additive Manufacturing;AM)とは、複雑で精緻な三次元構造を作製可能なテクノロジー。今回用いた方法は、粉末を出発材料とし、レーザで粉末を選択的に溶かして固めた層を積層していく「レーザ金属AM」法である。

 

 本研究成果は、Taylor & Francis発刊の速報誌「Materials Research Letters」誌に、11月29日(火)23時(日本時間)から公開された。

 

Full article: Novel single crystalline-like non-equiatomic TiZrHfNbTaMo bio-high entropy alloy (BioHEA) developed by laser powder bed fusion (tandfonline.com)

 

 本研究は、JST CREST [ナノ力学]革新的力学機能材料の創出に向けたナノスケール動的挙動と力学特性機構の解明(研究総括:伊藤耕三氏)での「カスタム力学機能制御学の構築 ~階層化異方性骨組織に学ぶ~」(研究代表者:中野貴由教授)(課題番号:JPMJCR2194)の一環として行わた。

 

 上記成果を、中野教授よりお送りいただいたPress Releaseにより紹介する。

 中野貴由教授 研究者総覧URL 

  https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/9136b32e9deb72a2.html

 (右写真は、中野教授よりお送りいただいた。)

 

<中野教授のコメント>

 私は長年、骨組織を中心とした自然界の創製物に倣った機能発現材料の創製に、ナノからマクロに至る階層的構造に着目しつつ取り組んできました。生体材料や高温耐熱材料に必要とされる過酷な環境下での力学特性の発現には、骨と類似したナノ・原子レベルでの界面構造が寄与すると仮説をたて本研究プロジェクトをスタートしました。

 

 レーザ金属3Dプリンタの超急冷を活用することで、金属材料の溶融・凝固現象を操り、原子レベルでの構造変化がマクロな材料特性を大きく変化させる「ナノ力学」現象を見出した本成果により、自在な機能制御のための「カスタム力学機能制御学」の構築に大きな一歩を踏み出したといえます。

 

 応用面からは新ジャンルのバイオマテリアルの創製を可能とし、 “バイオハイエントロピー合金(BioHEA)×レーザ金属AM”により、本来の常識を覆す高強度・高延性・低弾性・生体親和性を兼ね備えた新材料開発に成功しました。

 

【研究成果のポイント】

・相分離1傾向を持つBCC(体心立方構造)2型BioHEAを、レーザ金属AMプロセスで超急冷することで、真のハイエントロピー合金、すなわち混合のエントロピーを高めた多元系(多数の元素を含む)強制固溶体3合金の創製を実現。

 

・マクロ偏析4防止により細胞の接着班が均一に分布することで純チタンと同様の生体親和性を実現。

 

・AMによる溶融池での固/液界面制御により多結晶から単結晶様組織までの結晶配向5制御(組織制御)をBioHEAにて世界で初めて成功。低弾性率化6による骨類似特性を発揮可能に。

 

・“BioHEA×レーザ金属AM”にて、相分離のスケールダウンを行い、ナノ・原子レベルの組織制御からマクロスケールでの力学制御を実現。ナノ力学8現象を解明するための糸口に。

 

<概要>

 大阪大学大学院工学研究科の中野貴由教授、石本卓也特任教授、松垣あいら准教授らの研究グループは、レーザを熱源とするAMを用いて、BioHEAの超高強度化と低弾性率化という本来背反する特性を重畳可能であることを見出した(図1)。

 

図1 バイオハイエントロピー合金(BioHEA)と超急冷レーザ金属AMの組み合わせにより、高強度・高延性・低弾性・生体親和性を兼ね備えた新材料開発に成功。ナノ力学現象解明の糸口になることが期待される。

 

 レーザ金属AMによるマクロ相分離(偏析)を抑制し、強制固溶による真のハイエントロピー効果を引き出すとともに、金属AMプロセスによる結晶方位制御により低弾性特性を発揮させた結果である。同時に、加工性と生体親和性の向上ももたらした。

 

<本研究に関する問い合わせ先>

大阪大学 大学院工学研究科 准教授 松垣あいら(まつがきあいら)

TEL:06-6879-7506・080-3866-8274  FAX: 06-6879-7507

E-mail:  matsugaki@mat.eng.osaka-u.ac.jp

 

大阪大学 大学院工学研究科 教授 中野貴由(なかのたかよし)

TEL:06-6879-7505・080-1433-5017  FAX: 06-6879-7507

E-mail:  nakano@mat.eng.osaka-u.ac.jp

 

<研究の背景>

 究極の骨代替バイオマテリアル創製のためには、高強度・高加工性(高延性)・低弾性、さらには生体親和性といった多くの機能性を兼ね備えた金属材料の獲得が不可欠である。しかしながら、こうした特性は、原子間結合の強さに支配されるため、高強度と低弾性(強さと柔らかさ)、さらには高強度と高加工性(変形しにくさと変形させやすさ)はいずれもトレードオフ(両立できない)関係にあり、これらの同時発現は材料科学における大きなチャレンジである。

 

 こうした中、中野教授らは、2017年に世界に先駆けて BioHEAを設計し、ある程度の強度と生体親和性を示す材料の創製に成功した。ところが、実用化にはさらなる高強度化に加えて低弾性と高加工性を付与する必要があった。

 

 一方、中野教授らは、レーザ金属AM法が従来の一般常識としての単なる複雑な3次元形状を作製する手段ではなく、急峻な温度勾配による106 K/s8もの超急冷凝固を実現しつつ、バルク体を創製可能なプロセスであることを見出した。

 

 そして、レーザ金属AM法を駆使して、BioHEAのさらなる高強度化と高加工性の付与に不可欠なマクロ相分離(偏析)の抑制と、低弾性率化に極めて重要な結晶配向化(組織制御の一種)を可能とした。

 

<研究の内容>

 高強度・高加工性(高延性)・低弾性・良好な生体親和性を持つ新しいジャンルのBioHEAを創製するために、以下の観点から研究開発を実施した。

 

(1) BioHEAの相分離傾向の抑制:パラメーター合金設計法により、従来開発の5元系BioHEAに対し、生体為害性(毒性)の低いハフニウムを加えた、6元系(チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン)へと構成元素を増加させ、混合のエントロピーを増加することでマクロな相分離傾向を低減。

 

(2) レーザ金属AMプロセスによる強制固溶体化:超急冷現象を利用することで、本来、BCC構造が2相として相分離傾向を示す合金に対し、強制固溶によりマクロな相分離を抑制し、単相化(単一相化)する。結果として超高強度を発揮(図2)。

図2 レーザ金属AMプロセスの適用はマクロ相分離を抑制し(左)、強制固溶(各成分が均一に固溶された状態)によるBioHEAにおける強度の大幅上昇に成功(右)。

 

 

(3)強制固溶体化による加工性獲得:単相化による強制固溶体化によりナノ・原子レベルでは転位9運動に対し応力を要するものの、析出物のようなマクロレベルでの障害物が存在しないことから加工性は向上。

 

(4) レーザ金属AMプロセスでの超急冷と急峻な温度勾配による結晶方位制御:固液界面での急峻な温度勾配を利用して、低弾性<001>方向を優先配向方位とする単結晶様組織制御(図3)。ビーム条件により多結晶状態も実現可能に。

図3 新設計BioHEAのレーザ金属AMによる結晶集合組織(結晶配向)制御による低弾性率化。赤で示された<001>方向が低弾性特性を発揮。90GPa以下の低弾性率(低ヤング率)を示す。

 

(1)~(4)により、真のハイエントロピー効果ともいうべく、強制固溶体強化現象、さらには結晶方位制御を実現し、骨代替デバイスに最適な“高強度・高加工性・低弾性”という背反する特性を発揮させることに成功した。

 

 レーザ金属AMプロセスによる多結晶から単結晶へのマクロオーダーでの結晶方位・組織制御と界面制御は力学特性のカスタム制御を可能にする。図3に示すように、弾性率の自在制御も可能になる。

 

 加えて、図4に示すように強制固溶体化によるマクロ偏析の抑制は、合金組成の均一化により、純チタンと同様の思いがけない生体親和性の向上につながった。

 

 つまり生体用ステンレス合金よりもはるかに良好な骨芽細胞の接着・増殖(細胞接着・増殖は、インプラント周囲での骨再建に必要不可欠)であり、現在のインプラント用金属材料の主流である純チタンにも匹敵する親和性、加えて鋳造BioHEAと同等の高い生体親和性を示した(図4)。

 

図4 新設計BioHEAの高い生体親和性。既存の生体用合金であるSUS316L(ステンレス鋼)より優れ、CP-Ti(純チタン)に匹敵する生体親和性を有する。

 

 以上、今回設計したBioHEAは、レーザ金属AM特有のナノからマクロまでの階層的な構造/界面を人為的に制御することで力学特性の自在制御にもつながることが期待され、「カスタム力学機能制御学」構築への第一歩となる。つまり、ナノ・原子オーダーでの多元系原子結合が、マクロスケールでの力学特性制御へとつながり、ナノ力学現象を解明するための糸口になることが期待される。

 

 実用的には、開発したレーザ金属AMにより造形されたBioHEAは、これまでの骨バイオマテリアルとはけた違いの強度-加工性(延性)バランスと低弾性、さらには生体親和性を発揮することから、医療デバイスのカスタム機能化にも貢献することが期待されます。さらに本合金は高融点元素で構成されることから、高温での使用に耐えうる耐熱性ハイエントロピー合金(HEA)として航空宇宙材料部材への応用も見込まれる。

 

 

<本研究成果が社会に与える影響:本研究成果の意義>

 超高齢社会へ突入した現在、多様化する先進医療のニーズを満たす多機能特性を有する生体材料の開発が必須である。

 

 今回の成果は、それを最先端材料と最先端超急冷プロセス(AM)にて実現できることを世界に先駆けて示した。

 

 新開発のBioHEAは、これまで医療用に利用されてきた生体用金属材料(貴金属、ステンレス鋼、チタンおよびチタン合金)とは、その性質や合金設計手法が全く異なり、材料ー細胞界面での相互作用を媒介する接着斑(骨微細構造の制御に関わる分子群)の発達により、機能的で健常な骨の再建が期待さる。

 

 高い生体親和性と高強度を兼ね備え、かつ生産性が大きく向上した新規BioHEAは、整形外科・歯科領域でのインプラント材料としての応用が期待されることから、すでにインプラントメーカとの共同研究により医療用材料としての実用化を視野に入れて研究が進められている。

 

 さらに本成果は、高温耐熱材料にも拡張することで航空・宇宙材料の力学特性カスタム化にも応用可能である。

 

<用語説明>

※1 相分離

2つの異なる相に分離すること。多元系においては相律から平衡状態では相分離が容易となる。本研究では格子定数(原子間の距離)が異なる2つのBCC構造へと分離し、それぞれ異なる合金組成から構成されている。

 

※2 BCC(Body Centered Cubic)

体心立方構造のこと。体心位置に原子が存在する結晶構造。

 

※3 強制固溶体

本来相互に固溶せず相分離している状態を強制的に固溶させることで同一組成の固溶体として存在している状態。複数の元素が強制的に混合された状態であるために、格子のひずみが生じ高強度化される。

 

※4 マクロ偏析

マクロスケールレベルで合金組成の異なる領域が存在すること。この偏析により本来の均一組成の固溶体が形成されていない状態。

 

※5 結晶配向

結晶構造の配列を優先的に特定方向に配列したもの。特定方向に顕著な特性を示すことが可能となる。

 

※6 低弾性率化

弾性率は、物体に弾性変形範囲内での応力をかけた時の応力とひずみの比率、つまり応力に対して生じるひずみの程度を表す。骨の健全性を保つため、骨代替デバイスには、骨と同様に良くひずむ低弾性率の材料が求められる。

 

※7 ナノ力学

マクロスケールの力学特性と、原子・分子レベルでの構造変化や化学変化等のナノスケール動的挙動の相関関係とその作用機構を解明すること。最終的には、その知見に基づき新たな力学特性を発現する革新的力学機能材料の設計指針を創出することを目指した学理。

 

※8 106 K/s(冷却速度)

レーザ金属AM法で達成される大きな冷却速度。一般的な金属材料作製プロセスである鋳造法では102 K/s程度であることから、レーザ金属AM法が極めて高い冷却速度を示すことが分かる。

 

※9 転位

結晶中に含まれる、線状の欠陥。材料の永久変形のしにくさ(強度)は、転位の動きにくさによって決まる。転位が動きにくい(転位を動かすのに大きな力を必要とする)ことは、材料の強度が高いことに対応する。

 

 

(IRUNIVERSE tetsukoFY)

 

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