私と化成品業界を取り巻くあれやこれや〜あるケミカルエンジニアの吐露
原料高やその調達先、また環境負荷低減など、化学メーカーを取り巻く環境も、また激しい変化の中にある。あれやこれや、頭を悩ますことがあるが、私(エンジニア)のいまの頭の中は、ざっとこんなところだが。。。。
n-ブチルリチウムが手に入らない!
私たち樹脂製造を行なっているメーカーが、日常的によく使う試薬にノルマルブチルリチウム(n-ブチルリチウム)がある。この試薬は有機化学合成においては強塩基として働き(リチウムプラスイオンを放出しやすい)、例えばポリブタジエンやスチレン、ブタジエンゴムなどを重合させる際の開始剤として広く用いられている。n-ブチルリチウムは、リチウムイオン電池が登場する以前はリチウムの最大の使用先でもあった。
昨年後半、この試薬の入手が非常に難しくなった。直近ではやや購入もしやすくなってきたが、供給は安定的ではない。サプライヤーは、アルベマール(米)、FMC(米)、ガンフェン(中)などがあるが、アルベマール社は2021年四半期報告で、同試薬の原料である溶剤とリチウム金属コストが上昇の一途で、収益予測は困難、コストは価格の値上げを通じ顧客に転嫁される、と発表している。
日本では過去製造していたこともあるが、いまはほぼ中国からの輸入(FMC中国法人工場)に頼っているという。やはりリチウムが電池業界に寡占され始めているようで、投機的な値上がりが起こっているのか、それとも戦略物質のひとつとして喉元をおさえられているのか?リチウム資源自体は、地球に十分すぎるほどあるというが、今のところ供給不足の理由は不明だ。
接着剤の改良点、あれこれ
化成品の大きなカテゴリーのひとつに接着剤があるが、我々に馴染みのある接着剤といえば、セメダインやアロンアルファだろう。瞬間接着剤の代表であるアロンアルファ(東亞合成)は、一般向けに小売されているが、工業用の用途(マーケット)も非常に大きい。同社以外にも瞬間接着剤を製造する会社は多いが、ユーザーから求められる改良点もいろいろある。
そのひとつが「白化」(写真)だ。瞬間接着剤は、使用した後に空気と接触した部分が白く濁ることが多い。この原因は接着剤成分の「気化」にある。瞬間接着剤の主原料はシアノアクリレートという化合物だが、これは空気中の水分に触れると、瞬間的に固化する性質を持つ。また同化合物非常に沸点(気体になる温度)が低く、常温でも気化するため、その際蒸気が発生し、これが白濁の元となる。この白化は、製品の仕上がりにも影響してくるため、できれば発生しないようにしたい。そのためには、もっと沸点の低い接着剤を開発する必要がある。
また、あるいはご存じの方も多いのかもしれないが、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)という樹脂は、瞬間接着剤ではくっつかない。これらを難接着性物というが、ではなぜ接着できないかといえば、それは官能基(化学反応を起こしやすい基)を持たないからだ。接着の原理には、機械的、化学的、物理的なものがあるが、化学的な化学反応が起こりにくいと、接着性も鈍る。この難接着性物を接着できる化合物を開発することも、ひとつの我々のテーマだ。
積層構造にしないで、いかにガスバリア性を出すか
また、内容物と空気を触れさせないよう、例えば容器包装のビニール類の多くには「ガスバリア性」を持たせている。これは、外からの酸素の浸透を防ぎ、酸化させないようにすること、また炭酸飲料などの炭酸が外へ抜けないようにするなどの性能をいう。しかし、ガスバリア性を持つ異なった「素材」を積層させることで実現されていることから、これはリサイクルする上では混合してしまうため、廃棄時は焼却の道を辿るほかない。
包装材は、いろいろな目的から多くは多層構造になっているが、これではリサイクルに向かないため、近年では「モノマテリアル化」という考えが進んでいる。ガスバリア性を保持しながらいかにモノマテリアルな構造にするか。例えば積層ではなく、極薄くガスバリア性素材を塗布することで、同じような性能が出せるとも聞く。
ちなみに、PETボトルはモノマテリアルの代表ともいえ、これはペット素材100%でできている。では内容する炭酸をがどう抜け出ないようにしているかというと、これはPETの厚みでカバーしている。最近ではPETボトルも肉薄化が進んでいるか、炭酸飲料に関してはモノマテリアル性を維持するために、ガスバリア材の積層は行わず厚みを持たせることで炭酸が逃げるのを防いでいる。
最近、殊に多い、バイオ関連素材の要求
最近では、色々と「バイオ由来の材料をくれないか」という顧客からの声が増えている。また生分解性の添加剤もないか、との声もある。例えばプラスチック・ビニール製品を製造する上で欠かせない可塑剤(製品に柔軟性を与える)。近年では、生分解性を持つ包装素材なども多く出回っているが、実は可塑剤には生分解性はなく自然界に残存してしまう。
可塑剤の添加は、通常数%で、それほど問題になるオーダーではないが、中には10%ほど混入させるものもあり、そうなると少々懸念しなければならない。従来から生分解性の可塑剤はあったが、より機能的にも優れた可塑性を示す添加剤の開発が必要になってくるだろう。
(IRuniverse kaneshige)
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