東北大 LFP2倍容量の画期的な逆蛍石型リチウム鉄酸化物正極材を開発
リン酸鉄リチウムバッテリー(LFP)の2倍の容量が期待される新たな正極材を東北大と名古屋大のチームが開発したと東北大が発表した。既に世界ではEV用バッテリーで覇権争いが起こっている。世界の約6割が中国製のLFPリン酸鉄リチウム電池が占め、残り4割が三元系リチウムイオン電池生産で進んでいる。
しかし三元系リチウムイオン電池はLFPに比べてバッテリー性能は良いが資源に限りあるニッケル、コバルトなどに依存したバッテリーで2020年代の半ばには資源的な限界に到達する懸念がある。一方でLFPは発火の危険性は低いが電気容量では三元系に劣る欠点もあり、長距離目的のEVには適応できない問題があった。
この度、東北大学の多元物質科学研究所の小林弘明講師、本間格教授、名古屋工業大学大学院工学研究科中山将伸教授の研究チームは、これまで全く予想外の技術力で新分野のバッテリー正極材で新たな金属溶解技術を開発した。
これまで筆者など既に開発から遠ざかった者には想像つかない技術である。それは物質同士を機械的に混合して金属を熔かす技術である。金属も細かくなると熱的に不安定なり粒子同士が圧着する事が知られていたが、新熔融技術で作られた結晶は完全な結晶構造ではないが、かなり高温まで比較的安定した結晶構造を保つとしている。
東北大学の発表の要旨は以下の通り。
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正極材料として、安価な鉄を用いたリン酸鉄リチウム(LiFePO4)が実用化されてきたが、エネルギー密度が低い問題があった為更なる高エネルギー需要の高まりにより、レアメタルフリーかつ高エネルギー密度の新しい正極材料開発が求められていた。
逆蛍石型リチウム鉄酸化物(Li5FeO4)は、実用化しているLiFePO4正極で利用されている鉄のレドックス反応に加えて酸素のレドックス反応(酸化還元反応)も利用することができる。理論上はLiFePO4正極の2倍以上の容量を示すことが予測され、近年世界的に再注目されていたが、これまで酸素のレドックス反応を十分に活用できず、LiFePO4正極とほぼ同じ容量しか利用することができなかった。
- レアメタルフリーかつ高容量なリチウムイオン電池正極材料を開発
- 鉄元素の使用によりサプライチェーンリスクを回避し低コスト化
- 鉄と酸素両方のレドックス反応注1を活用
- 準安定相注2を利用することで高容量が実現
本成果は、2023年1月15日に米学術出版大手ワイリーの専門誌Advanced Energy Materials誌にオンライン掲載された。
図1 逆蛍石型リチウム鉄酸化物Li5FeO4(左)と今回開発した準安定相(右)の結晶構造。赤、黄緑、茶色の球はそれぞれ酸素、リチウム、鉄原子を表す。準安定相では各原子の位置が等価に配列した逆蛍石構造を形成している。
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東北大学は金属の分野で世界に先駆けた開発を行ってきた歴史がある。特に磁石の分野では多くの研究者が成果を世界に発信してきた。筆者もそんな分野の研究室に修士課程で2年間だけだが育ててもらった。
最近は東北大学が余り新たな発信をしてこなかったが、学者を目指すエリートたちは、まだ世界の常識をひっくり返す事に一生懸命その人生を投じている熱意が冷めていないと、この報道で改めて確認した。この開発はもしかしたら温暖化を防止しようとする世界を救う技術に成るかも知れない。
(IRUNIVERSE/Katagiri)
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