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脱プラの救世主なるか 加工メーカーが紙製カトラリー・アメニティグッズブランドを立ち上げ

 昨年4月に「プラスチック資源循環促進法」が施行され、多くの企業では従来以上にプラスチックの削減が求められるようになった。その一環として、使い捨てのカトラリーやアメニティグッズをプラスチック以外の素材に置き換える動きが活発化している。

 一般的にこれらの製品は薄利多売のため、大手企業が中心になって製品化をすることが多い。しかし、使い捨てとはいえ触り心地、強度などを追求すると、微細な加工技術が必要となり、これがコストに跳ね返ってくる。先日、大手企業ではつくれない高品質使い捨て紙カトラリー・アメニティグッズを開発している企業のブランド立ち上げ秘話を聞くことができた。

 

 物語の主人公になるのは、埼玉県和光市に本社を構える(株)エステック(本社埼玉県 坂本学社長)。これまでプレス加工やスリット加工、NC加工の技術などを駆使し、大手自動車メーカーや電機メーカーが生産するシートやフィルムなどの加工で実績を積んできた。同社のセグメント比率は、ロール材やシート材プレスや打抜き加工が50%、新品のカーナビのディスプレイに貼る保護フィルムなどの材料開発が30%、オフセット、グラビア、シルクスクリーン印刷で20%となっており、あらゆる素材を目的別に加工し製品化できるのが特長だ。

 取引先との関係も良好で黒字経営を維持しているが、このようなときだからこそ、新たな領域にチャレンジする機運が高まっており、その中で目をつけた分野のひとつが紙カトラリーだった。

 

自社の加工技術で紙製スプーンを開発

 

 きっかけは3年前にさかのぼる。坂本社長がスーパーで購入したアイスクリームを食べていたときだった。

「紙はUの字にすると固くなる性質を持っている。この特性を利用してカチカチのアイスでも楽に食べられる紙のスプーンをつくれないだろうか」

このアイデアを具現化するため、翌日から坂本氏は試作品の開発に取り掛かり始めた。

 

 

 どのような形状にしたら食べやすいか、ひねりはどれくらいにするか、持ちやすいデザインはないかなど日々改良を重ねる中で、最初にぶつかったのが、厚みの壁だった。原材料に対する圧力のかけ方を、数%単位で微調整しながら、試作品を十数個つくり思考を重ねた。その結果出来上がったのが、最初のスプーンだ(写真左端)。

 「本業とは異なる思考を巡らせるのでとにかく楽しかったですね」

 現物は通常のプラスチックスプーンと比べて非常に硬い。その硬さを証明するため、坂本氏がスプーンを手に取り机を叩いてみせると、「カン、カン」といった乾いた音がした。

 スプーンが完成すると、次はフォークなどに取り掛かり、程なく開発を終了。ナイフ(写真左から2番目)の開発に取り掛かったところまた厚みの壁にぶつかった。

 これまでの食品衛生基準を満たした紙ナイフは1.3ミリが最厚だったが、これでは強度が弱すぎる。プレス加工の技術を駆使して4.3ミリまで厚みを高めた。また、のこぎり刃の形状をさらに鋭利にするよう工夫した。

 「細かいところですが、ギザギザの形状が気になっています。目標は、硬めのステーキでもサクサク切れるナイフですね」

 

より複雑な製品づくりへ

 

 

 カトラリーの開発は順調に進み、採用を検討してくれる企業も増えてきた。そうしているうちに今度は、アメニティグッズの依頼が飛び込んできた。

 「歯ブラシを作ってくれないかと言われた時、カトラリーの技術を既に持ち合わせているので、そう難しくないと思いました」

 歯ブラシの製作は初めてだったが、数カ月の開発期間を経て完成。営業先で見せたところ、予想以上の手応えを得た。しかし、個人的には、三相に重なって見える持ち手が気に入らず(写真左)、改良を重ね一層に見える歯ブラシ(写真中央)を作り上げた。

 だが後日、ブラシの採用を検討している企業の担当者から、「怪我をするほどではないが、歯ブラシのバリが気になります。どうにかなりませんか」といった注文が入った。

 顧客の注文には、どのような内容でも迅速に答えるのがエステックの強み。2週間ほどでバリのない歯ブラシ(写真右)を作り上げた。

 

紙加工技術の全てが詰まった櫛

 

 このように紙製のカトラリー・アメニティグッズの開発を続ける中で、最近思いついたのが櫛だ。櫛は一本あたりの単価が高いことから。うまく量産化できれば売上の向上にもつながる。

 実利の面も考えこれまでの経験をいかしつつ何タイプもつくりあげた。競合は、石灰石からつくられた新素材「ライメックス」使用した櫛。ただ、これを使用した場合、製造時に樹脂成形を行うので、型をつくらなければならず、イニシャルコストが高く、低価格化がまだ実現できていない。

 

 

 いくたびかの試作を重ねた後最終的に出来上がった櫛は、これまでの紙製品の中で最も満足のいくものとなった。

 まず、櫛にとっての硬さが押し当ての技術を使用したことで、十分に担保された。これに合わせてこだわったのが安全性だ。髪をすく際、頭皮に櫛の先が直接あたるので、頭皮を傷つけることもある。

 「カトラリーもそうですが、人の口や肌に直接触れるものなので、素材にこだわりました」

 素材には、食品衛生対応でありセルロースナノファイバー配合の高剛度紙を用いて、形状の安定性を図った。環境への配慮では、適切に管理された森で作られた木を原材料としていることを認証する「FSC認証」を取得中だ。

 合わせて、印刷業も営んでいる強みを活かし、ブランド名をカラーで名入れした。

 「当社は印刷の技術も持ち合わせているので、追加料金なしで希望するロゴを付け加えることもできます」

 

夢は「エステック」マークの普及

 

 櫛を筆頭にこれまで開発したカトラリー・アメニティグッズの納品先は、ホテルや旅館などの宿泊施設のほか、飲食店やゴルフ場を考えている。大量生産が進めば、コンビニエンスストアでの販売や海外展開も視野に入れる。

 「社員をスペインやオーストラリアに派遣し、カトラリーやアメニティにおける紙製品の市場動向を探っています。脱プラスチック化が進んでいる欧州諸国ですが、今のところ当社で開発した製品と同等の性質を持つ製品にはまだ出会っていません。オーストラリアも同じですね。円安が続く限り価格面でも十分勝負できると見ています」

 

 これらの製品は、4月から本格的に販売を開始する。数カ月後、下の写真にあるエステックマークが印刷された使い捨て櫛やスプーン、ナイフなどを宿泊先や飲食店で見ることができるかもしれない。

 

 紙製カトラリー・アメニティグッズ開発メンバー:左から(株)エステックの髙木隆司取締役、坂本学代表取締役、総代理店を担当するフジモリ産業(株)化成品事業部の岡本衛主事

 

(IRUNIVERSE ISHIKAWA)

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