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EU域内排出量取引制度(EU-ETS)

 今回は6月1日(木)午後に開催されたノルウェー船級協会(DNV)日本支社主催のウェビナー「EU域内排出量取引制度(EU-ETS)」を聴講したのでその要点をレポートしたい。DNVはノルウェー・オスロに本部を置く自主独立財団として1864年に設立され、船級以外にも第三者認証、燃料分野のリスクマネジメント、技術コンサルティングといった幅広いサービスを提供している。

 

EU-ETSとは?

 EU- ETS (EU-Emissions Trading System)は、企業に温室効果ガス (GHG) 排出枠を設け(上限:キャップ)、その排出枠を取引(トレード)するキャップ&トレード制度であり、また課金制度である。排出枠はEU Allowance(EUA)と称され、欧州エネルギー取引所、European Energy Exchange (EEX)ないし金融機関から購入可能になる予定。

 

 企業が 1トンの温室効果ガス(GHG)を排出するには、1EUAが必要で、その価格は100ユーロ前後になると言われている。温室効果ガス (GHG)排出が減少するにしたがってその価格が下がることが予想され、その逆もありうる。

 

 EU-ETSの目的は2030年までに GHG 排出量を 1990 年比で55% 削減し、毎年段階的に削減し、2050年までにゼロとすること。

 

海運への影響

 2024年からEU加盟国管轄内の港湾に出入りする5,000総トン(Gross Tonnage)を超える貨物船と旅客船に適用され、2027年からは5,000総トンを超えるオフショア支援船(洋上プラットフォーム)にも適用される。当初は二酸化炭素排出量のみを対象とし、2026 年からはメタンと亜酸化窒素へも拡大。当面は商船のみだが、後に400トンから5,000 トンのオフショア船および一般貨物船も排出量の報告が義務付けられ、EU-ETS に含まれる可能性がある。

 

 バイオ燃料と「非バイオ由来再エネ燃料(RFNBO:Renewable Fuels of Non-Biological Origin)」の使用に関しては二酸化炭素排出がゼロと見なされる。

 

誰が実際に負担するのか?

 国際海事機関(IMO)の「国際安全管理コード(ISM Code)」注1)で規定された船主と運航会社(オペレーター)が負担することになる。また用船契約の情報公開で権威のあるボルチック国際海運協議会(BIMCO)によると、航海用船契約(voyage charter party), 数量輸送契約(Contract of Affreightment: COA)では船主が負担し、定期用船契約(time charter party)では用船者となっている。

 

 加えて、欧州の“Polluter Pays Principle” (汚染者負担原則)の考え方からすると、今後は荷主に対しても十分説明をし、応分の負担を依頼するとのこと。

 

注1)国際安全管理コード(The International Safety Management (ISM) Code):海難事故防止のため人的要因の重要性が国際的に認識され、船舶の安全管理の強化が求められたことにより「ISMコード」が SOLAS条約 IX章に取り入れられた。その結果、2002年7月1日以降、国際航海に従事する高速旅客船を含む客船、500総トン以上の全ての貨物船及び移動式海底資源掘削ユニットとそれらの運行管理を行う会社に対し「ISMコード」が強制適用された。つまり、船舶管理会社はISMコードに則った安全管理システム(SMS)を構築、文書化、実施、維持した上で、旗国政府の審査を受け、適合証書を取得し、船舶には安全管理証書(SMC)を備え置かなければ、外航運輸事業に従事出来ないことになっている。

 

導入後の流れ

 EU域内の航海および寄港に関わる排出量の100%、および EU域外からの入出港の排出量の50% はすべて EU-ETS の対象となる。制度回避を試みる船舶を未然に防ぐべく、EU域内の港から300 海里以内にあるEU域外の積み替え港に寄港するコンテナ船には、その積み替え港までの航海の排出量の50% を報告する義務を課す。その為にEU当局 は積み替え港のリストを作成する。

 

 EU域内の港に入出港する船舶を運航する海運会社は、管理下の船舶からのGHG 排出量に対して十分な排出枠(EUA)を購入・確保し、毎年9月にEUAを償却することが求められるが、その具体的方法は未だ決まっていない。これらの企業は、EU-MRV 注2)規則に基づいて毎年 GHG 排出量を監視、報告、検証することが義務付けられており、この情報が排出量の算定に使われる。

 

注2)EU-MRV規則は燃費消費実績報告制度に関する欧州規則で2015年7月1日に発効。これによりEU加盟国管轄内の港に入出港する5,000GTを超える船舶については、燃料消費量等のデータ収集・報告を実施するための監視計画書(モニタリングプラン)及び排出報告書(エミッションレポート)を作成し、EU各国のいずれかの認定機関より認定を得た認証機関に提出することが義務付けられている。

 

EU- ETS コスト面の影響

 EU-ETS に基づく排出枠(EUA)の購入コストは海運会社にとって高額に上る可能性があり、これは用船者や荷主を含む海運バリューチェーン全体の利害関係者間の価格設定や契約条件に影響を与える可能性がある。

 

 我が国の視点からすると、欧州域内の港に入出港する船舶、特にコンテナ船等の航海データと排出実績データを利害関係者で共有し必要に応じて検証できる信頼のおけるデータ基盤が必要となってくる。

 

 DNVの提案としては、「Emissions Connect」のようなデータ管理プラットフォームを使うことにより、船舶の排出に関わる日々の膨大なデータの流れをリアルタイムで維持管理し、それにより人間の手による書類処理という無駄を省くことにあるとのこと。当然、管理するデータは海運バリューチェーンの全ての利害関係者により利用・共有されることを考えると、正確、信頼される内容であるとのこと。

 

まとめ

 総じて、EU-ETS は海運会社が業務効率化、低炭素技術投資、代替燃料の採用などの対策を通じて排出量を削減することを奨励することを目的としている。

 

 最近の海運に対する温室効果ガス(GHG)排出規制に関する国際規則はかなり複雑になってきており、それと並行して排出改善への技術的アプローチと船舶燃料自体も多種多様になってきており、理解するのにはそれなりの専門知識と時間を要する。

 

 また、参加しての筆者の印象だが、かつては海運会社も年に1度の年次報告書での説明で事足りていたのが、それでは十分ではなくなってきている現実があり、海運会社への大きな負荷になっている印象が強い。

 

 その他の海運業界独自或いは業界の垣根を超えた取り組みには、例えば、荷主や海運会社が海上貨物輸送に起因するCO2排出量を算出・評価・公表する共通の枠組みを規定した「海上貨物憲章」(Sea Cargo Charter), 気候変動に関する取り組みを船舶融資の意思決定に組み込んだ「ポセイドン原則」(Poseidon Principles)などがある。

 

 今後機会をみて読者目線で解説してみたい。

 

 

(IRuniverse H.Nagai)

世界の港湾管理者(ポートオーソリティ)の団体で38年間勤務し、世界の海運、港湾を含む物流の事例を長年研究する。仕事で訪れた世界の港湾都市は数知れず、ほぼ主だった大陸と国々をカバー。現在はフリーな立場で世界の海運・港湾を新たな視点から学び直している。

 

 

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