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Arata AbeのELV RECYCLE Report vol.81最近の中古車輸出のデータから(11) 軽自動車

 本連載の読者より軽自動車の中古車輸出はどうなっているかという問い合わせがあったようである。確かに全体的に単価の上がった2022年において軽自動車はどうなったか気になるところである。そこで軽自動車の中古車輸出について調べてみることにした。

 

 本連載のvol.71および72では、中古車輸出台数に2つの統計があることを示した。軽自動車も同様であり、貿易統計上の中古車輸出台数のほかに、軽自動車届出台数というデータがある。後者は軽自動車検査協会が公表する輸出関連の検査関係業務件数である。また、前者の貿易統計では660cc以下のガソリンエンジン車(乗用車)という品目が設定されており、それを拾うことにより軽自動車(乗用車)の中古車輸出台数を示すことになる。

 

 図1は貿易統計上の軽自動車の中古車輸出台数(貿易統計台数)と、軽自動車検査協会の軽自動車届出台数を比較したものである。これを見ると全ての年で軽自動車届出台数のほうが多いことがわかる。また、時系列的に見るといずれも2017年までは増加傾向だったと言えるが、その後は低迷している。軽自動車届出台数は2018年から2019年にかけて12万台から7万台に大きく減少し、その後7万台前後で横ばいとなっている。

 

 2つの統計に差が生まれる要因としては、これまでも見てきたような少額貨物の影響がある。つまり、貿易統計では1品目20万円以下の少額貨物は統計に計上されないことから、過少になる。また、貿易統計台数は660cc以下の乗用車のみであり、貨物車は含まれていない。軽貨物車は貿易統計上では2000cc以下の品目に含まれるため、図1の数値に加えることができない。これらにより貿易統計台数が過少となっていると考えられる。

 

図 1 軽自動車の中古車輸出台数の推移

出典:財務省貿易統計、日本自動車販売協会連合会ホームページ、軽自動車検査協会ホームページより作成

注:「貿易統計台数」は貿易統計上の660cc以下の中古車輸出台数(乗用車)を示す。「軽自動車届出台数」は軽自動車の輸出関連の検査関係業務件数の合計を示す。これらの単位は台数で目盛は左軸である。b/aの単位は%であり、目盛は右軸である。

 

 貿易統計は、数量が過少になるものの、仕向地を示すことができる点で有効である。図2は660cc以下のガソリンエンジン車(乗用車)の中古車輸出台数において2022年の主要仕向地(上位7か国)の数量の推移を示している。これを見ると、2022年は軽自動車においてもロシアが最大の仕向地であることがわかる。2020年、2021年はパキスタンが首位であるが、2019年もロシアは最大の仕向地であった。

 

 筆者が初めてロシアに行った際は、ロシア人は体格が大きく、またウラジオストクなどでは坂道が多いことから、ロシアでは軽自動車の需要はないと聞いていた。それから幾度かロシアの中古車市場を訪問する度に次第に軽自動車を見かけるようになったが、最近は最大の仕向地になるほどになっている。

 

 とはいえ、それでも1万台に到達しておらず、規模は大きくない。これに対して図では示されていないが、パキスタンの2016年、2017年、2018年の数量は2.2万台、3.7万台、2.1万台であり、図よりは数倍多い。それが図1で示されるように2018年から2019年の大幅な減少に繋がっている。また、かつてはスリランカも多く、パキスタンとの2か国で7割から8割のシェアを占めていた。スリランカの2021年はゼロ、2022年は1台である。最近はフィリピンが伸びるなどだいぶ顔ぶれが変わってきている。

 

図 2 主要仕向地の660cc以下ガソリンエンジン車(乗用車)の中古車輸出台数(単位:台)

出典:財務省貿易統計より作成

注:主要仕向地は2022年の同品目中古車輸出台数の上位7か国

 

 図1に視点を戻すと、軽自動車届出台数(b)に対する貿易統計台数(a)は下降傾向にあることがわかる。つまり、2つの統計の差が縮小している。これより想定されるのは軽貨物車のほか、少額貨物の減少である。

 

 図3は図1の貿易統計台数を単価別に見たものである。これを見ると予想とは異なる状況となっている。確かに20万円超50万円以下は減少し、50万円超100万円以下、100万円超は増加している。一方で、単価の低いカテゴリーの20万円以下は減少しておらず、むしろ増加している。

 

 20万円以下の内訳を見ると、アラブ首長国連邦、フィリピンのシェアがそれぞれ46%、39%であり、この2か国で85%を占める。この2か国の軽自動車の中古車輸出は2013年から全て20万円以下である。つまり、この2か国の数量が増加することで20万円以下の数量が増えていると言うことができる。また、1台20万円以下であっても、複数台の輸出により1品目20万円超になり、貿易統計上の20万円以下の数量が増え、両統計の差が縮んだという見方もできる。

 

 なお、他の金額帯を見ると、パキスタン向けは2021年に20万円超50万円以下が1万台ほどあったが、2022年はゼロとなっている。代わりに2021年の実績がゼロだった50万円超100万円以下が5千台ほど計上されている。つまり、パキスタン向けの価格帯が上昇しており、図の構造全体の変化に影響している。また、100万円超についてはシンガポール、マレーシア、オーストラリアのシェアがそれぞれ42%、27%、11%のシェアであり、それらの国の増加が影響している。

 

 さて本稿を執筆している中で、日本政府がロシア向けの中古車輸出の制限を検討するというニュースが飛び交った。これによりどのような変化が起こるかである。中古車輸出市場の縮小、仕向地の多様化、経由地輸出の増加などが想定されるが、それらが数値に表れるかである。今後の課題としておきたい。

 

図 3 660cc以下ガソリンエンジン車(乗用車)の中古車輸出台数(単価別、単位:台)

出典:財務省貿易統計より作成

注:単価は金額を台数で割ったもの

 

 

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阿部新(Arata Abe)

山口大学 国際総合科学部・教授

2006年一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。

同大学研究補助員を経て、2008年より山口大学教育学部・准教授

2020年より同大学国際総合科学部・教授

 

                                                                                                                

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