タングステン価格、硬直続くか 商社中国人幹部「EVは逆風」 レアアースにはプラス
タングステン価格の硬直状態が続いている。タングステンAPTの国際価格は9月7日から仲値315ドル/mtuで横ばい。さらに長期で見れば、2021年夏から2年余りは300-350ドルの間のボックス圏で推移している。この先、少しは動きが出る可能性はあるのか。当面の見通しについて、主に中国との特殊材料貿易を扱う中堅商社の中国人トップに話を聞いた。
■タングステン、需要も供給も動かず
タングステンは中国に偏在する鉱石であり、世界の生産の8割超が中国産となっている。ただ、中国政府が資源の希少性と代替不可能性から厳しく生産を管理しており、世界のタングステン生産量は総じて10万純分トン程度で過去10年以上大きな変動はない。この点について、中国人トップは
「中国政府がこの規制を変更する気配はないので、世界的に見てもタングステン供給量は今後も当面は変わらないと思います」
と、供給は不変との見方を述べた。だとすれば変数は需要になってくるわけだが、これはあまり良くない、という。
「世界的な製造業不振を背景に中国内外で工作機械の超硬向け需要が長く低迷しています。
中国では不動産不況による建築・建材需要の減少も響いている」(同トップ)ためだ。
過去3か月間のタングステンAPTの国際価格の推移(EU Freemarket)($/MTU)、
さらに、見逃せないのが電気自動車(EV)の普及の影響だ。
従来、タングステンの用途としてはその高硬度を利用した超硬需要があり、中でも自動車生産向けが6割とされる。自動車生産における超硬需要はエンジン生産の必要に応じ、ガソリン車1台を100とすると、ハイブリッド車で2/3、電気自動車(EV)で1/3が目安とされている。つまり、特に中国で急速に進むEV普及は、タングステン需要にとってはマイナスとなる。
さえない材料が多いタングステンだが、このトップも
「世界的にもメーカーさんは既に必要分は調達してしまった感じですね。在庫があるので、必要な時に最低限を調達しているようです。超硬向けは前述の理由でさえませんし、航空機向けは横ばいで、需要は増加も縮小もしません」
「タングステンは潜在的に供給過剰が続いていますから、価格は動きません。今後もしばらくは同じ状況が続くと思っています」
との見方を示した。
■EVは磁石向けにはプラス
まさにEVバブルの様相を呈する中国だが、ほかの鉱種への影響はどうだろう。そう尋ねると、このトップは、
「ネオジムなどの磁石向けレアアースの需要が強いです。EVのモーターに使われるほか、風力発電向けの需要が伸びています。中国は拡大する国内需要を賄うため、レアアースは輸入も増やしています」
と話した。
過去3か月間の金属ネオジムの価格推移(99% FOB China)($/Kg)
このトップによると、
「逆にランタンなどの超硬向け材料は18年ぶりの安値に下落しています。タングステンと同じく、世界的な製造業の不振が影響しています」
といい、EV向けか超硬向けかで鉱種の明暗が分かれつつある。
過去20年間の金属ランタンの価格推移(99% FOB China)(S/Kg)
(IR Universe Kure)
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