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Americas Weekly2024#3 新興産油国ガイアナ情勢が緊迫 紛争になれば大国を巻き込むリスク生む

 新興産油国の南米ガイアナ情勢が緊迫している。豊富な石油資源が眠るエセキボ地域を巡るベネズエラとの領有権論争が先鋭化しているためだ。緊張の高まりを受けて両国は2023年12月、軍事行使はしないことで合意したが、ガイアナの旧宗主国である英国が現地に海軍艇を派遣し、ベネズエラが部隊増強で応じるなど事態が収まる兆しはない。欧州、中東での戦火の波が南米にも及ぶ可能性がぬぐえないままだ。

 

 ベネズエラはかねてから、ガイアナの国土の約7割を占めるエセキボ川以西の地域を自国領土だと主張してきた。沖合を含めて豊富な石油資源が眠る地域だ。

 ガイアナ政府は、エセキボ以西は1899年に国際的な仲裁機関が英国領ガイアナの領土だと認定し、ベネズエラもこれを認めたとして自国領だと主張している。一方のベネズエラは、1821年に国境線はエセキボ川であると宣言し、当時の英国政府も認めたはずだと主張している。

 ガイアナでは2015年、米エクソンモービルが沖合で膨大な埋蔵量の石油資源を発見し、大規模な石油生産が始まった。1日あたりの石油生産量は60万バレル近くまでになり、今後さらに増える見込みだ。

 石油資源が発見された後、ベネズエラはエセキボ地域の領有権の主張を強めた。このためガイアナは2018年、国際司法裁判所(ICJ)に法的な判断をくだすよう申し立てていた。

 

2023年暮れ以降、領有権を巡る動きは一段と激しくなった。

 12月1日、ICJはベネズエラに対し、エセキボ地域の現状を変えるような行動を慎まなければならないとする決定をくだした。

 2日後の12月3日、ベネズエラはエセキボ地域の領有権を巡る国民投票を実施し、選挙管理当局は、投票者の約95%がエセキボ地域がベネズエラの領土であるとする政府の見解を支持したと発表した。また、ベネズエラ国会は主権と領土保全を強化するための法案を可決した。

 12月5日には、マドゥロ大統領がエセキボ地域を自国領土にした新しい地図を公表した。同時に、国営石油会社にエセキボ地域での原油採掘の許可を与える意向を示した。

 これに対しガイアナのアリ大統領は12月6日、「領土を守るための予防措置を強化する」との声明を発表し、国連安全保障委員会への提訴も辞さない姿勢を示した。

 米国も反応した。12月7日、国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は「ガイアナの主権を絶対的に支持する」と述べた。

 事態を憂慮した中南米の首脳は、両国に話し合いのテーブルにつくよう促した。12月14日、アリ大統領とマドゥロ大統領は、カリブ海の島国セントビンセント・グレナディーンで会談し、双方が武力行使を回避することで一致した。

 

 ところが、事態は収まらなかった。12月24日、英国が海軍の警備艇「HMSトレント」をガイアナに派遣すると発表した。周辺での麻薬の密売の取り締まりのための訓練などが目的だが、これにベネズエラが反発した。

 マドゥロ大統領は12月28日、ガイアナとの国境付近に約5600人の部隊を派遣することを命じた。周辺で実施している軍事演習に合流するためだ。両国の対立に英国が参入し、「一触即発」が懸念されるまでに事態が悪化した。

 英海軍の警備艇は12月29日にガイアナ沖合に到着した。

 

 年が明け2024年に入り、さらにきな臭さが増した。2024年1月8、9日の2日間、米政府の西半球担当のエリクソン国防次官補がガイアナを訪れ、ガイアナ政府との地域防衛協力について協議した。この席でガイアナ政府は、自国の防衛能力の強化について米国に協力を要請した。英国の次に米国が領土対立に参入した形だ。

 1月11日、ガイアナのナンドラール司法長官は、ガイアナ政府がベネズエラに対し「米国は南米に軍事基地を設置する計画はなく、そういった要請も受けていない」と伝えたことを明らかにした。事態を沈静化させることが目的だ。

 米エネルギー関係者は、マドゥロ大統領がロシアとの関係を深めていることを警戒している。ベネズエラとロシアの軍事交流は強固だ。ウクライナへの侵攻前後、ロシアは米国をけん制するために、ラテンアメリカにロシア軍を常駐させることを匂わせたが、ベネズエラはその候補地とされた。

 プーチン大統領のウクライナ侵攻の理屈を、そのままマドゥロ大統領が踏襲すれば、エセキボ地域への侵攻の理屈は簡単に出来上がる。

 ガイアナは最近まで南米の最貧国であったため、防衛力はベネズエラに比べてかなり見劣りする。対立が軍事衝突に発展した場合、米英がガイアナ防衛に直接関与しなければ、ガイアナはひとたまりもない。軍事衝突となれば、ロシアは当然、ベネズエラに加勢する。中国企業もガイアナの石油開発に関係しており、有事となれば中国政府が関与してくる。

 ガイアナで紛争が起きれば、その影響はウクライナやガザよりも大きくなる。

 

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Taro Yanaka

街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

趣味は世界を車で走ること。

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