金融アナリスト川上敦氏の世界経済動向セミナー#4 円安は今がピークか
金融アナリストの川上敦氏が定期的に開催しているセミナー「Chuck Kawakamiの金融経済Now」の最新オンラインライブが2024年4月9日に行われた。いつもの通り多彩なデータを使用しての講演で、川上氏は「現在のドル高はやや過剰で、円安がさらに進むとは考えにくい」と、ドル高・円安は現在がピークとの見方を示した。
■円の実質購買力は1970年代の低水準
為替レートの推移
4月10日のニューヨーク外国為替市場で円の対ドル相場は一時、1ドル=153円台まで値下がりし、1990年6月以来およそ34年ぶりの円安ドル高を付けた。ただ、川上氏は「ドルインデックスや日米マネタリーベースは落ち着いており、ドル高が一段と進む兆候は薄い。現在はドルがやや上がりすぎ」と指摘。「これまで米国の高金利を背景にドル高が進んできたが、最近はこれ以上金利が上がっても網からないとの(投機筋の)見方が広がっている」として、過剰にドル高が進行する恐れは低いと話した。「6月末までにも方向が変わってもおかしくない」とも予測した。
円の実質購買力の推移
もっとも、「弱い円」はやはり問題だ。日本銀行のデータでは足元の実質実効為替レート(2010年=100)は70.25と1970年の水準にある。川上氏は「日本の購買力は1970年代のレベルに落ちているということだ」と危機感を示した。
■米国、景況感も「そこそこ」で「さてさて」
4月10日のドル急伸の直接要因になったのは、米労働省が同日発表した3月の消費者物価指数(CPI)の上昇率が市場予想を上回ったことだ。米連邦準備理事会(FRB)が早期に利下げに動くのは難しいとの観測が強まった。
米CPIの推移
ただ、川上氏は米経済について「米雇用調査会社のチャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスのデータでみると、3月のレイオフ(解雇)数は10万人近くと2000年のITバブル崩壊後と同じレベルまで増えている」と話し、「やや変化の予兆が感じられる」と指摘した。
もちろん米国はIMFの最新データで2024年の実質国民総生産(GDP)が1.8%増と堅調が予想される。川上氏も雇用は「全体には高原状態が続いている」とはする。しかし、米経済を俯瞰すると「工業生産はマイナスが続くし、景況感指数も製造業の伸びはそこそこ、サービス業は上がっていない」とも指摘。一方で「物価は、食品インフレは完全に収まったが人件費の方が問題になっている。住宅価格は値上がりし、消費者信頼感は強まったり弱まったりしている」と、経済の様相が「さてさて、という感じ」(川上氏)に、やや不安定化していると述べた。
■日本、マイナス金利解除の印判とは限定か
一方、日本経済はなんとか小康状態を保っているのが現状のようだ。植田和男日銀総裁が3月19日にマイナス金利を解除した。日本におよそ17年ぶりに「金利がある世界」がやってきたのだが、川上氏は「金利を上げないという選択肢はなかったと思う。もっと早くやるべきだったのを今実施しただけ」と、予定調和的な動きだったと述べた。「ゼロ金利を長く続けたが、融資は伸びず効果はなかった。今、金利を引き上げたからと言ってすぐに大きな経済的インパクトがあるわけではないだろう」と話した。
街角景気の推移
足元の日本経済は、やはり「給与の伸びが物価に追いついておらず、3月は街角景気も少し低下した。住宅市況がさえず、日本人が買っていないのかもしれない。小売り売上高はやや回復し、融資も少し増えたが限定的だ」と指摘し、景気の足腰はなお心もとないと見た。
■欧州と中国はともに「悪い」
他の地域については、ユーロ圏、中国についてともに「悪い」と評価。ユーロ圏については「GDP成長率は鈍化しているし、景況感も悪く工業生産高は大幅マイナスだ」と話した。ただ、「失業率はマイナスから横ばいに近づき、やや改善している」とも述べた。
ユーロ圏のGDP
一方の中国は「景況感指数など政府公式のデータは3月に小幅に改善したが、子細に見ると良いとは言えない」とする。「例えば固定資産投資はスタート地点をコロナ禍前の2019年にすると伸びていないし、民間投資はやはり減っている」とし、「政策金利(中国の場合は最優遇貸出金利(ローンプライムレート、LPR)の再度の引き下げに動くのも時間の問題だろう」と予想した。
中国LPRの推移
■紛争拡大で商品値上がり
一方、コモディティは「全般に上がっている」(川上氏)。きっかけは4月1日のシリア大使館空爆で、2023年から続くフーシ派による紅海での攻撃なども受けて「地域紛争の拡大が意識されている」ためだ。川上氏は「原油や天然ガスも値上がり基調だが、特に著しいのは安全資産である金」として、「『有事の金』が急速に買われている」と話した。
金相場は中国やロシア、インドなどが金備蓄を増やしていることも押し上げ要因となっており、基軸通貨のドル離れを進める動きも背景にある。川上氏は「決済通貨は米ドルがなお5割弱を占めるが、『その他の地域通貨』が徐々に増えており、いろいろな通貨で取引を行う動きが広がりつつある」とも述べた。
決済通貨のシェアの推移
(IR Universe Kure)
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