アンチモン価格、最高値続く 鉱石枯渇の観測と軍需需要の期待で 戸惑う業界
マイナーメタルの1つであるアンチモンが高止まりしている。国際価格は5月30日に仲値$2万750/tonと過去最高を更新し、6月に入っても同水準で推移している。希少な鉱物で鉱石が枯渇するとの懸念が強まる一方、地域紛争の増加による武器・弾薬需要の拡大や太陽電池向けの中長期の需要増などが意識され、価格を押し上げている。
■年初から8割近く値上がり
過去20年間のアンチモン価格の推移(99.65% China)($/ton)
「こんなに急激に価格が上昇し、また高価格が長く継続するのは見たことがない。これが業界にとって良いことなのか悪いことなのか、わからない」――中国の上海有色網(SMM)は5月31日付のレポートで、こんな戸惑いの声を上げた。アンチモン価格は2024年年初からでは75.8%上昇。特に4月以降の上昇が激しく、4-5月の2か月間で57%値上がりした。
過去6か月間のアンチモン価格の推移(99.65% China)($/ton)
三酸化アンチモンも追随して値上がりしている。5月30日に仲値$1万7750/tonと過去最高値を付けた。
過去20年間の三酸化アンチモン価格の推移(99.5%min FOB China)($/ton)
■中国の埋蔵、16年しか持たない?
価格押し上げの最大の要因は、供給ひっ迫懸念だ。
アンチモンは中国とロシアからの供給が世界の約7割を占める。特に中国は過去100年以上に渡る伝統的なアンチモン供給国。ただ、鉱石は枯渇懸念があり、ロイター通信が5月末に米国地質調査所(USGS)のデータを引用して報じたところでは、中国のアンチモン鉱石埋蔵量は2012年の95万トンから2023年には64万トンに減少した。一部では、中国のアンチモン静的埋蔵量と生産量はわずか16年とも伝わる。
枯渇懸念は従来からあったにもかかわらず、最近になってにわかに供給ひっ迫感が増したのはなぜなのか。中国との取引を扱う中堅金属商社の幹部は、「中国当局の環境査察の影響があるのでは」と話した。中国環境当局は5月初旬から定期の環境査察を実施しており、タングステンなど他のマイナーメタルでは、鉱山の一時閉鎖などの影響で国内価格が値上がりしているためだ。
ただし、中国のひっ迫懸念は年初から次第に高まってはいたようだ。1月21日付の中国メディアの新浪網は、「業界全体が神経質になっており、採掘業者の売り惜しみが出ている」との業界関係者の声を伝えていた。中国国内事情に関しては、複合要因を指摘する見方も多い。
関連記事:タングステン・モリブデン・スズ・アンチモンの価格上昇が顕著になり、金属産業チェーンの上場企業が積極的に動く | MIRU (iru-miru.com)
そして、ロシアからのアンチモンの供給は、ロシアのウクライナ侵攻をめぐる西側諸国の制裁によって途絶えつつあるようだ。ロイターが中国の税関データに基づいて伝えたところでは、2024年3月と4月には、ロシア産アンチモンの出荷はなかった。2023年にはロシアのアンチモン供給は世界の24%を占めていたという。
■西側諸国、軍事目的で「大口の買い」か
一方の需要は堅調観測が根強い。アンチモンの用途は 難燃剤、電池、軍需品など。ロイター通信は、西側諸国の「秘密の」軍事購入もアンチモン需要を後押ししているとの見方を伝えた。地域紛争の多発に伴い、各国政府による「大口の」購入が尽きないとの見立てだ。
さらに、太陽電池の性能向上に伴い、アンチモンを含む金属使用が増えると考えられていることも、需要増観測を後押ししている。ロイターが中国の招商証券のデータとして紹介したところでは、太陽電池向けアンチモン需要は2021年の1万6,000トンから、2026年には6万8000トンまで急増するという。
■代替品には時間がかかる
需給ギャップが大きい中、アンチモン価格には当面、値下がりの要素は見えにくい。特に希少物ゆえの供給ひっ迫は、代替品が見つからない限りどうにもならない。ロイター通信は、識者のこんな言葉を伝えた。
「代替品はあるだろうし、代替案が使われるだろうが、それらの代替案を得るには時間がかかるだろう」
(IR Universe Kure)
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