金融アナリスト川上敦氏の世界経済動向セミナー#6 膠着、日本の実力は半世紀前に逆戻り
金融アナリストの川上敦氏が定期的に開催しているセミナー「Chuck Kawakamiの金融経済Now」の最新オンラインライブが6月4日に行われた。いつもの通り多彩なデータを使用いた講演で、川上氏は現在の世界経済について「膠着感が広がっている」と指摘。特に日本経済については「実質購買力などが落ち、由々しき事態」と厳しい見方を示した。
■日本、エネルギー部損で閉塞感
内閣府が5月16日に発表した2024年1-3月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.5%減、年率換算で2.0%減だった。設備投資が縮小し、2四半期ぶりのマイナスとなった。
川上氏は「マネーサプライが横ばいで、経済全体の活気がなくなっている」と顔を曇らせる。企業は余剰金が豊富で「お金を貯めこんでいる」(川上氏)にもかかわらず、設備投資に回っていないのが現状だ。
日本企業の余剰金
消費マインドも低い。現金給与が相変わらず物価に追いつかず、実質的な減給が続く。セミナー参加者からも「家から出ないでお金を使わないようにしている」と消費を引き締めているとの声が上がった。
さらに川上氏は「由々しきは、日本の購買力が落ちていることだ」と指摘。「円の実力」を示す実効為替レートは4月に69.99と70を下回り、1970年代前半のレベルに落ち込んでいる。これは「高度経済成長期からの遺産を使いつくしたことになる」(川上氏)という。
実効為替レートの長期推移
川上氏は日本経済の今後について「これまでは円安がGDPを支えてきた面があったが、その頼みの輸出も4月に対米輸出額がマイナスに転じた」と指摘。「一部のアナリストが予想しているように日本経済がリセッション入りするとまでは考えないが、ちょうどコロナ前のずーんとした悲観論に似た雰囲気が広がっており、閉塞感が続きそうだ」と話した。
■米中経済も活気なく
膠着感が強いのは日本だけではない。世界全体の経済も、想定よりは良いものの活気がある状態ではない。
世界経済予測
このうち米国は米供給管理協会(ISM)が6月3日に発表した5月の製造業景気指数が48.7と2カ月連続で前月から低下し、景気に頭打ち感が出ている。雇用などは高原状態で消費も堅調だが、株式も熱狂は感じられず、「利下げへの期待のみで」(川上氏)上がっている。それも、川上氏いわく「物の価格が下がらないと金利は動かない。下がっても動かないかもしれないので結局動かない」ということで、硬直しつつある。
中国経済は低め横ばい。発電量が4月に低下し、不動産は公式発表でも悪い。川上氏は「固定資産投資が国有企業だけ伸びており、国だけが頑張っている状態」と指摘。「小売売上高の伸びも鈍く、おそらく景気は相当弱い」との見方を示した。
中国政府は5月に不動産救済策を打ち出したものの、川上氏は「香港のハンセン指数は救済策を材料に一時値上がりしたがすぐに戻しており、期待は一時に終わっている」と指摘した。
中国住宅価格の推移
■金銅は頭打ち、ドル高一辺倒も終わるか
商品相場も頭打ち感が強い。快進撃を続けてきた金と銅も上昇は「一巡」(川上氏)。建て玉は横ばいになり始めている。海上運賃も落ち着き、もののやり取りは横ばいモードだ。
金の建て玉推移
銅の建て玉推移
銅価格の推移
為替は、川上氏は一貫して「円高は可能性としてある」との立場。米ドル高が日本円を含めた他国通貨安の要因のわけだが、川上氏は「豪ドルやユーロが対ドルで上昇し始めている」と指摘。「ドル高一辺倒はそろそろ終わる。良いところに来ていると思う」と話した。
各国通貨の対米ドル推移
(IR Universe Kure)
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