【インタビュー】「日本にレアメタル原料生産を取り戻せ」NIC Resources 西野元樹・新社長

「10年、20年後に引退する時、日本のレアメタル業界の役に立ったと思える仕事がした いです」――。4月にNIC Resources社長に就任した西野元樹氏は、抱負を真摯に語る。 新卒で入社した蝶理、そして創業から携わったアドバンスマテリアルジャパン(AMJ)時代 を通し一貫してレアメタル事業に従事した。「日本のレアメタル原料調達の強靭化に貢献 したい」と意気込む。
■レアメタル一筋 25 年
NIC Resources 西野元樹社長
「タングステンはこんなに光るんですよ」 嬉々として鉱石見本を見せてくれた西野氏のレアメタルに対する情熱は生半可ではな い。神戸市外大でロシア語を学び、蝶理時代からロシア相手のタングステンやチタンの取引を手掛けた。蝶理から分離したAMJでは、シンガポールでレアメタルスクラップの回収事業を立ち上げるなど活躍。途中、衆院選に出馬するため一時離職したが、選挙活動後もAMJに戻るなど「レアメタル業界にこの人あり」と、一目置かれる存在だった。
こうしたことから、 タングステン・モリブデン化合物などを扱う日本無機化学工業(NIC)がレアメタル原料調達、リサイクル事業拡大のためNIC Resourcesを 2023 年11月に設立するにあたり、社 長として西野氏に白羽の矢を立てたのも、自然の流れだった。
「長年の専門であるタングステンはもちろん大切ですが、それ以外にモリブデンや廃触媒、コバルトスラッジなどの加工販売も手掛けます。私に知見がないメタルでも、その分野のプロに来ていただき、一緒にレアメタル資源確保を目指したい。レアメタルリサイク ルを含め、あまり人がやっていないことに挑戦したい」。
どういうことか。
■「原料生産の他国依存」に翻弄されて
日本のレアメタルの原料生産は失われて久しい。鉱山自体がないわけではなく、例えば タングステン鉱山はかつて日本全国に大小合わせれば 50鉱山ほどあり、1970年代には年間1000-1500トン規模の生産が行われていた。しかし、日本でタングステン精鉱の生産が 行われたのは 1993年まで。1980年代後半からは APT など加工品の輸入が増え、最初は韓国産、次いで中国産がシェアを伸ばした。排水規制の強化や中国の EL制度なども あり、輸入品もAPTからYTOに日本の出発原料はシフトしていく。結果として国内での 精鉱生産はなくなり、APT 製錬能力も縮小していった。他業種でも見られる「産業の空洞化」「原料生産の他国依存」が進み、日本はタングステン原料の自給自足体制を「手放し て」しまった。
さまざまなタングステン
西野氏はこの状況を第一線で見てきた 1人である。現在、日本のレアメタル・レアアー ス(希土類)原料の輸入の大半は中国からだ。中国はタングステン、レアアースなど多くのレアメタルの鉱石・製錬分野で圧倒的なシェアを持つことを強みに、レアメタル・レアアースを輸出規制し、政治上の武器化することをしばしば行ってきた。特に 2010年、尖閣諸島の問題 でレアアースの対日輸出が実質的に禁止され、日本中が「レアアースパニック」に陥った ことは、西野氏の人生観に大きな影響をもたらした。
「国政レベルで、レアメタル資源調達に向き合わなければならないと痛感したのです」
それが2012年の衆院選出馬に結び付く。結果は 2 万 7000票超を獲得したが落選。国政 レベルから資源確保を行うことへの思いは叶わなかったが、西野氏の「日本のレアメタル業界に貢献したい」との願いは強まった。
■「パイを広げる」リサイクル
西野氏は、「リサイクルでも新機軸で挑戦したい」と話す。
「従来からのトレーディング事業は商社の機能としてまだまだ必要なので今後も維持して いきますが、誰かが生産したものを別の誰かにお届けするだけじゃないですか。それは時にそんなに簡単ではないんですけどね。今後5 年10 年のスパンでそれとは別のことにも 挑戦したい。具体的にはパイを拡大する、つまりリサイクルです。レアメタルのスクラップリサイク ル自体は新しい話ではなく、皆さん既にやっていますし、更に広げていこうとしていま す。だから、使いやすい良いスクラップはもう取り合いです」
「一方で品位が低い、また不純物が多いものは日本では処理が出来ずに海外、特に環境面での規制がまだ整っていない 東南アジアに流れています。これは単なる資源の流出の問題だけでなく、『日本は汚さな いけど、海外は汚しても OK』という見方も出来ます。非常にハードルが高いですが、そ ういった日本での処理が難しいスクラップなどの日本でのリサイクルにも挑戦したい。限られたパイの奪い合いではなく、新しいパイを作るリサイクル。非常に価値があることと思います」
また、もう一つの挑戦として西野氏は「日本国内にあるレアメタル鉱山の再稼働も考えたい」と話す。
「50年前は日本国内に銅、錫、亜鉛といっ たベースメタルはもちろん、タングステン、モリブデン、インジウムなどレアメタルの鉱 山もたくさんありました。それがこの 50年の間に全てなくなりました。資源はまだ残っ ているところもありますが、探鉱・採掘・選鉱といった技術がなくなったことが残念。こ れらの技術をどこから持ってくるのか?人はどうするのか?今の日本の環境規制に合わせ ることが出来るのか?などこちらもハードルは非常に高いですが、1 社ぐらい、真剣に日本でのレアメタルの採掘を目指す会社があっても良いじゃないですか」。
弊社棚町と会談する
4 月以来の出足は? との問いに、西野氏は目を細めて答えた。
「皆様に支えられ、お陰様で順調な滑りだしです。でも、まだまだこれからです。一通り 会社の体をなすようにはなりましたが、上記のような新しい挑戦をしていくためには同じ志を持った優秀でやる気がある営業マン、トレーダーに来てもらい、会社をもっと成長さ せていかないといけない。社長として今までとは違う、より重いものを背負うことになり ましたが、非常にやりがいはあります。日々、楽しみながら、レアメタル資源確保に向け て汗をかいています」。
(IR Universe Kure)
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