ニッケル取引事件、いまだに余波 投資会社と仲介会社が争い、LMEは取引量回復
2022年春にロンドン金属取引所(LME)で起きたニッケル取引の混乱による余波が2年半たった今でも続いている。場所もなんとシンガポールで、取引会社と仲介会社が訴訟を続けている。LME自体は訴訟をいくつか抱えているもののニッケル取引量も回復し、従来の信頼を取り戻しつつあるのだが…。
■なぜかシンガポールで争い続く
米ブルームバーグ通信は9月13日、「自己勘定投資会社フォーランドが英金融ブローカーIGグループのアジア子会社を相手取った訴訟をめぐり、結果を不服として8月に控訴した」と伝えた。LMEは当時、中国の青山集団の取引に端を発した価格急騰を受けてニッケル取引を取り消すという失態を演じた。フォーランドはこの時の取引で利益が出ていたが、取引を仲介していたIGが取り消された取引に該当するとして支払いを拒否し、争いになっていたという。裁判所はIG側の主張を正当としていた。
フォーランドはシンガポールで事業展開し、IGのアジア子会社はシンガポールを拠点とする。裁判もシンガポールの裁判所で行われ、この一件のすべての舞台はシンガポールだ。LMEがあるロンドンからは遠く離れた場所で、年単位の時間が経過してもなお余波が続いていることになる。
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■LMEのニッケル取引、上期に7割増
LME自体は混乱の傷が癒えつつある。LMEの親会社である香港証券取引所(HKEX)が9月2日に発表した2024年1-6月期アニュアルレポートによると、LMEの同期間のニッケル取引量は6万4000ロットと、前年同期比73%増えた。LMEは事件を受け、一時はニッケル取引を中止し、その後も信頼失墜から取引量が減ったが、回復している。
LMEの2024年1-6月期の金属取引状況
(香港証券取引所が同所で開示したアニュアルレポートより)
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ただ、ニッケル価格自体は長期の低迷が続く。LMEニッケル価格は9月13日に現物$1万5665/tonを付けた。2020年秋以来5年ぶりの安値水準となる。電気自動車(EV)バッテリー向け需要期待の失速や世界的な製造業の回復遅れなどが響き、需要改善が見込めずにいる。
過去5年間のLMEニッケル価格の推移($/ton)
(IR Universe Kure)
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