韓国の高麗亜鉛、お家騒動が激化 親会社が敵対的買収、自社株買いで防衛
亜鉛精錬で世界最大手の韓国の高麗亜鉛を巡るお家騒動が激しさを増している。親会社である永豊グループからの敵対的買収(TOB)をかわすため自社株買いを行い、経営者側と永豊側それぞれの持ち株が拡大している。亜鉛は産業の基礎素材で、韓国産は世界の亜鉛シェアの1割を握る。混乱が韓国経済や国際価格に及ぶ可能性も出てきた。
■経営陣側11%、永豊側5%それぞれ買い増し
ロイター通信の10月29日報道によると、高麗亜鉛の経営陣は10月28日、自社株買いにより発行済み株式の9.85%を新たに取得したと発表した。経営陣側に参画する米ヘッジファンドのペイン・キャピタルも同日1.41%を取得したことから、経営陣側は10月28日に自社の保有株を11.26%増やしたことになる。
一方、敵対する永豊グループは、協力者であるプライベート・エクイティのMBKを通じ、10月半ばに新たに5.34%を取得していた。
■もとは永豊傘下も近年は関係悪化
激しい買収合戦を繰り広げる高麗経営陣と永豊だが、両社はもともと1つの会社で、永豊が高麗亜鉛の親会社に当たる。永豊グループは1949年の創業で、1960年代から中核企業の永豊亜鉛を通じ亜鉛事業を手掛けてきた。1974年に姉妹会社として高麗亜鉛を設立。その後、両社は70年以上にわたって原材料を共同購入するなど深いつながりを保ってきた。精錬所は永豊が韓国北部の石浦、高麗が南部の温山でそれぞれ運営する。
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ただ、永豊が運営する石浦精錬所は環境問題その他でトラブルが続き、生産量が減少。高麗亜鉛は4月に永豊との原材料共同購入を負担に感じて取りやめていた。さらに両社は系列商社の経営権で争うなど、近年は関係悪化が目立ってもいた。そんな中で永豊側が2024年に入り高麗に持ち株増加を申し入れたが高麗の経営陣が9月にそれを拒否、敵対的買収と認定したことから本格的なお家騒動となった。
■両社とも持ち株拡大も議決権の獲得ならず
10月に入ってからの買収合戦により、両社の高麗亜鉛株の持ち株比率は上昇する見通しだ。米ブルームバーグ通信は10月29日、韓国のアナリストの推計として、持ち株比率は高麗経営陣が39.5%、永豊側が42.1%となると報じた。
今回の買収で買収した株式は自己株式として保有されるため一部は償却される見通しで、両社とも議決権までは獲得できない。持ち株は拮抗し、両社はさらに保有株を積み増す可能性が高い。買収価格も競り上がるとの見方から韓国市場での高麗亜鉛の株価は急騰。高麗経営陣の自社株買い発表があった10月28日は7%超値上がりした。
■亜鉛価格の押し上げ要因に?
今後の気がかりは、高麗亜鉛の経営混乱の影響だ。亜鉛は電子や半導体、自動車、鉄鋼、化学といった様々な分野の基礎素材だ。高麗亜鉛は半導体硫酸も生産してサムスン電子など韓国の半導体大手に供給する。韓国経済メディアの毎日経済の10月7日報道によると、経営の混乱を受け、「高麗亜鉛の従業員の一部は永豊勢に経営陣が変わるなら離職すると脅している」という。国の基幹産業である半導体や自動車分野にも影響しかねないため、韓国政府も成り行きを見守っていると伝わった。
過去3か月間のLME亜鉛価格の推移($/ton)
一方、精錬亜鉛価格は値上がりしている。ロンドン金属取引所(LME)の亜鉛価格は1年8か月ぶりの高値圏にある。もともと深刻な鉱石不足に加え、オーストラリアの鉱石生産が細るとの懸念も浮上した。高麗亜鉛の混乱で万が一、精錬も滞れば、供給不安に拍車をかける可能性がある。
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(IR Universe Kure)
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