世界的な重要鉱物市場が激動に見舞われる中、中国のタングステン粉末市場で先週、歴史的な価格変動が発生した。
2026年1月27日、国内取引価格は心理的節目となる130万元/トンの大台を一気に突破。わずか1日で8万元(+6.29%)上昇し、133.5万元/トンという記録的な高値を付けた。この急騰は単なる一時的な需給逼迫ではなく、脱炭素社会と安全保障におけるタングステンの戦略的価値が根本的に見直されていることを示唆している。
1. 供給サイド:強まる制約と在庫の枯渇
市場の供給構造は、複数の要因によりかつてないほど引き締まっている。
- 中国の生産統制: 世界最大のタングステン供給国である中国は、資源保護の観点から採掘割当制度を厳格化している。さらに、環境規制や安全基準の強化により実際の生産量が割当を下回るケースも散見され、供給の上限を事実上抑制している。
- 在庫の枯渇: 業界全体の在庫水準は極めて低く、サプライチェーンのバッファ(緩衝機能)が喪失している。これにより、わずかな需要増がダイレクトに価格へ転嫁される構造となっている。
- 新規開発の停滞: 海外での新規鉱山開発は長期化しており、地政学的リスクも相まって、短期的な供給増は期待薄な状況だ。
2. 需要サイド:太陽光発電と防衛産業が新たな牽引役に
需要構造は劇的な変貌を遂げている。従来の産業用途に加え、以下の「新興需要」が爆発的な伸びを見せている。
- 太陽光発電(PV)技術の革新: 最大のドライバーは、シリコンウェハー切断用「タングステンワイヤー」へのシフトだ。高効率N型電池の増産に伴い、細線化と高強度化が可能なタングステンワイヤーの需要が急拡大しており、素材に対する「量」と「質(高純度)」の要求レベルを同時に引き上げている。
- 安全保障と先端技術: 世界的な再軍備の潮流の中、防衛産業(装甲貫徹弾、エンジン部品等)からの引き合いが堅調だ。また、半導体や航空宇宙、医療機器など高付加価値分野での採用も拡大している。
3. 政策と今後の展望:新たな価格均衡点へ
市場を取り巻く政策環境も変化している。EUの国境炭素税(CBAM)導入など脱炭素ルールへの対応や、重要鉱物のサプライチェーン強靭化を巡る国際的な動きが、調達コストと難易度を押し上げている。また、インフレヘッジとしての投資資金流入も価格変動を増幅させている。
今後のシナリオ
専門家は、タングステン市場が構造的な転換点にあると分析している。
- 短期的見通し: 極端な低在庫と堅調な需要を背景に、価格は高値圏で推移する公算が大きい。ただし、急騰に対する実需の抵抗感から、激しい乱高下を繰り返す可能性がある。
- 中長期的見通し(1〜3年): 供給制約が容易に解消されない中、価格は従来のレンジを脱し、一段高い水準で新たな均衡点(ニューノーマル)を探る展開となるだろう。
2026年初頭のこの価格急騰は、タングステンという「地味な鉱物」が、エネルギー転換と経済安全保障の「戦略物資」へと昇華した象徴的な出来事と言える。企業には、単なる資源調達にとどまらず、高付加価値製品への転換や、ESGに対応した持続可能なサプライチェーン構築という新たな競争戦略が求められている。
(趙 嘉瑋 編集IRUNIVERSE)