タングステンAPT(パラタングステン酸アンモニウム)相場の急騰を背景に、タングステンスクラップ価格が異次元の高騰を記録した。直近では、超硬スクラップがキロ当たり3万円という前代未聞の水準に到達している。この熾烈な原料の取り合いと驚異的な相場上昇は、市場の根底で起きているダイナミックな「構造変化」によってもたらされた。タングステンAPTは実勢では2800~3000$/mtuとさらに過去最高値を更新している。
しかし足元では、一部のトレーダーから「すでに超硬スクラップ価格は下落に転じている」との声が聞かれ始めている。果たして、このキロ3万円という大台をもって市況は完全にピークアウトしたと判断すべきなのだろうか。直近の相場動向と市場関係者の見地から論理的に考察する。
(タングステンAPT相場の推移 $/mtu)

(超硬スクラップ相場(日本国内平均値)の推移 YEN/kg)

輸出国から輸入国へ転じた中国:世界市場を吸引する構造変化
今回の異次元の高騰を読み解く上で欠かせないのが、昨年から顕著になっている中国のタングステンスクラップ購買動向の劇的な変化である。かつてタングステンスクラップの主要な供給国であり、最大の輸出国であった中国は、現在では明確に「輸入国」へと転じている。
自国での旺盛な需要を賄うため、あるいは戦略的な資源確保の観点から、中国が世界のタングステンスクラップを強力に吸引し始めた影響は計り知れない。この「世界の工場」による需給構造の根本的な転換が、代替原料であるスクラップへの需要を一気に集中させ、今回の熾烈な取り合いとパニック的な買いを誘発した最大の要因と言える。
市場関係者の想定を大きく超えた「異常相場」
この相場がいかに市場の予測を逸脱していたかは、現場で実務にあたるトレーダーの動向からも浮き彫りになる。
あるベテラントレーダーは、昨年11月の段階で手持ちの在庫をキロ当たり15,000円で売却している。当時の需給環境や過去の相場推移を鑑みれば、15,000円は十分に利益を確定できる高値圏であり、そこで売り抜けるのは極めて合理的かつオーソドックスな判断であった。まさかその数ヶ月後に価格が倍の3万円にまでバウンスするなど、市場の最前線に立つプロフェッショナルでさえ想像すらできない「異常相場」であった。
キロ3万円は天井か? ピークアウトの論理的背景
現在、価格が下落に転じ始めているという事実は、市況が明確な転換点を迎えたことを強く示唆している。キロ3万円でピークアウトしたとみるべき理由は、以下の3点に集約される。
実需の限界と価格転嫁の壁:
キロ3万円という水準は、エンドユーザー(超硬工具メーカーなど)の製品への価格転嫁の限界点を大きく超えている可能性が高い。実需を伴わない投機的、あるいは焦燥感に駆られた買いはいずれ息切れする。「これ以上の高値では採算が合わない」と買手側が調達を絞ったことで、相場が実質的に天井を打ったと見るのが自然である。
中国勢の「吸引」一服と在庫調整:
世界のスクラップを買い漁っていた中国の購買意欲が、一定の調達目標達成や、あまりに急激な高値への警戒感から一服したと考えられる。最大の牽引役であった買いの勢いが衰えれば、流通市場には高値で売り抜けたい玉(在庫)が滞留し始め、一転して下落圧力となる。
心理的節目(3万円)の達成感:
相場において「キリの良い数字」は強烈な心理的レジスタンス(上値抵抗線)として機能する。3万円という大台到達により、多くの市場参加者が達成感を抱き、一斉に利益確定の売りに回ったことが下落のトリガーとなったと推測される。
今後の展望
現在のタングステンスクラップ市況は、中国の「輸入国化」という構造変化に伴うオーバーシュート(行き過ぎた上昇)から、実需に見合った適正価格への回帰プロセスに入ったと評価できる。したがって、キロ3万円を当面のピークと判断するのは極めて妥当である。
今後は、下落のスピードと底値がどこで形成されるかが焦点となる。特に、世界の玉を吸引した中国が、どの価格帯まで下がれば再び買いに動くのかが相場の底堅さを決定づける試金石となる。APT相場や超硬工具の実需動向を注視しつつ、乱高下する相場環境に対する厳重なリスク管理が求められる局面である。
(IRuniverse YT)