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原料への危機感強し 日本機械工具工業会:異例の「今年度見通し公表見送り」とタングステン国内還流への布石

2026/06/04 07:29
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2026年6月2日、東京マリオットホテルにて日本機械工具工業会の定時総会が開催された。雇用環境や給与水準の改善が進み、従来予測(年間4840億円)を上回る売上高を記録した好調な2025年度から一転、今年度は原材料価格の高騰と供給不足に対する強い警戒感が示された。国を挙げて取り組むタングステンのリサイクル戦略や、サプライチェーンの目詰まりに関する製造現場の切実な声、そして新体制におけるキーマンの動向をレポートする。

1. 先行き不透明な事業環境、異例の「今年度見通し公表見送り」

佐橋会長(住友電工常務取締役)からの機械工具工業会の事業報告では、現在の業界が直面する厳しい状況が浮き彫りとなった。昨年度は政府の各種政策も奏功し順調に推移したものの、今年度は原材料の価格高騰と供給網の不透明さから、異例となる「今年度の生産量および金額の見通し公表を見送る」という決断が下された。

今年度の最重要課題として掲げられたのが、「タングステン原料の調達確保とリサイクルの徹底」である。超硬スクラップが海外へ流出することを防ぎ、選別・保管・処分の体制を国内で確立することが急務となっている。これを受け、経済産業省の指導のもと『超硬スクラップのリサイクル促進のためのガイドライン』が発行された。今後は工業会全体で顧客や関連団体へ働きかけ、国内還流の機運を本格的に高めていく方針だ。

また、これまでワーキンググループとして活動してきたタングステンリサイクルは、6月1日付で「研究会」へと昇格した(メンバー等の詳細は後日発表予定)。あわせて、経産省が推進する企業間データ連携基盤「ウラノス・エコシステム(Ouranos Ecosystem)」の導入に向けたワーキンググループ設立も視野に入れており、タングステンリサイクルにおけるデジタル化・トレーサビリティ確保の可能性も模索していく構えだ。

2. 経済産業省の動向:サプライチェーンの「目詰まり」解消へ

来賓として登壇した経済産業省の須賀課長からは、国の安全保障と直結する資源戦略について説明があった。

中国による重要鉱物の輸出管理強化を受け、日本政府は特定国からの輸入に代わる調達先の切り替え調査コスト等を負担する支援策を展開している。タングステンについても、今回のガイドライン改定を通じて国内還流を強力に後押しする。

さらに中東情勢の緊迫化に伴い、石油やナフサ等の供給網に対する監視体制を強化している。経産省内に「目詰まり解消チーム」を設置し、情報提供窓口からの収集データをもとにボトルネックの特定を急いでいる状況だ。同時に、消費者の買いだめが品不足を誘発するリスクへの警鐘も鳴らされた。

3. 製造現場からの悲鳴:シンナー・潤滑油の深刻な不足

会場で参加者から聞いた話では、タングステン不足に加えて、工場稼働に直結する深刻な課題が噴出した。

参加者からは、「タングステン問題も深刻だが、現場ではシンナーや機械油、潤滑油の不足が生産にブレーキをかける段階にきている」との窮状が訴えられた。原油やナフサの輸入量は確保されていても、製品化のプロセスを海外に依存していた分を国内生産へ切り替える際に遅れが生じている可能性が指摘された。

また、「全体として量が足りているというマクロな情報だけでなく、具体的に何番手の製品在庫があるのかといった品種別の詳細情報がないと、現場の工程計画が立てられない」といった、より解像度の高い情報開示を求める声も上がり、行政と業界団体の連携による迅速な対応が求められている。

4. 佐橋会長「仏作って魂入れるのはこれから」

総会後の懇親会にて、佐橋会長にいくつか質問した。

――タングステンのリサイクルガイドラインが策定されましたが、今後の課題は?

佐橋会長: ガイドラインの作成により、一つのシステムは形になりました。しかし、「仏を作って魂を入れる」のはこれからの我々工業会の重要な仕事です。

――具体的な回収率の目標や、処理プラントの建設計画については?

佐橋会長: 現時点では各社で状況が異なるため、具体的な回収率はお答えできません。会社間の垣根を超えたシステムとして機能し始めた段階で発表できるかと考えています。処理工程を誰が担うかについても、関係各社の工場の生産余力を見ながら検討を進めており、現時点で開示できる情報はありません。

――海外流出への歯止めについてはどうお考えですか?

佐橋会長: 市場原理に基づけば、スクラップは高く買ってくれるところへ売られてしまいます。この海外流出分をどう国内に留めるか、その仕組みづくりが最大の課題です。また、こうした重要鉱物資源の調達困難という問題は、タングステンだけでなく、人工ダイヤモンドなど他の素材でも起こり得る問題として注視しています。

5. 新体制のキーマン、三菱マテリアル・張守斌 新副会長への期待

今回の総会を通じて、タングステンの調達問題や石油関連資材の供給懸念といった業界の危機感が浮き彫りになる一方で、国主導のガイドラインという明確な方向性が示された意義は大きい。

特に印象的だったのは、新たに副会長に就任した三菱マテリアル常務の張守斌氏の存在だ。若く前向きなスピーチは、不安を抱える会場を力強く勇気づけるものであった。

張氏はタングステンのユーザー側、そして工具製造の責任者として、佐橋会長と同様に供給懸念を深く憂慮している。三菱マテリアルとしてもリサイクルに取り組み、安定確保を目指す方針を示している。

余談ながら、張氏が学位を取得した秋田大学鉱山学部は日本の金属・鉱業界における名門であり、同氏のように日本に留まり最前線で活躍する優秀な人材を多く輩出している。中国の政策による重要鉱物の調達懸念と「脱中国」の動きが進む業界内にあって、日中両国の事情に精通し、公平かつ俯瞰的な視座を持つ張氏を副会長に据えた日本機械工具工業会の慧眼には大いに期待したい。

 

(IRuniverse akai)

久世寿(Que sais-je)

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