米軍のシリア空爆が暗示するバイデン政権の対中東政策

米軍は2月26日、バイデン政権になって初めてシリアでイランを狙った空爆を敢行したと発表した。国内メディアはイランの施設を狙ったと報じたが、標的となったのはイラン傘下のイラク人主体の民兵集団ヒズボラ旅団とされ、イラン傘下勢力の攻撃に対する報復であるとみられる。(写真はYahoo画像から引用)
米軍の攻撃に先立つ2月15日、イラクのクルディスタン地域の中心都市へウレル(エルビル)がロケット砲攻撃に曝され、一部が国際空港付近に着弾した。ヒズボラ旅団はロケット砲攻撃への関与を否定していたが、米側は主要な実行部隊であったとみている。ヒズボラ旅団の創設者ムハンディスは、トランプ前政権によって行われたガーセム・ソレイマニ殺害作戦で、主要目標としてソレイマニと運命を共にした。
ヒズボラ旅団にとってムハンディスの弔い合戦を含め、米国を狙う動機は十分にあったのだ。イランのファールス通信は、イラク―シリア国境で米国軍の航空機の活動が活発になっていると伝えた。また、米軍機はイラン傘下のシーア武装勢力による反撃を恐れ慎重な行動を取らざるを得ないと伝え、イラン政府の虚勢を代弁した形だ。イランはバイデン政権の圧力がトランプ政権のそれに勝るとも劣らないことを実感させられた。
今回の攻撃についてバイデン米大統領はイランへの警告とし、バイデン政権のスタンスを如実に表していると言える。バイデン政権といえば、トランプ政権の政策からの転換に主眼を置いて語られることが多い。今回の攻撃が示したことは、対中国政策と同様、数年来にわたり米国の国是となっている政策の方向性については転換するどころか、より強力に推進するということである。
イランのライバルと位置づけられる対サウジ政策についても同様のことが言える。米国は情報機関による、ジャーナリストのカショギ氏殺害事件について皇太子ムハンマドの指示があったと結論付けた報告書を発表し、サウジの反発を招いた。バイデン大統領はカショギ氏殺害を指示したムハンマドにより強硬な態度で臨むべきという声に押されたとも言われる。
原油価格の下落に加え、シェール革命による米国での石油自給体制の確立により、サウジの戦略的価値は低下してきた。サウジはトランプ一族へ個人的に取り入ることで、かろうじて米国との蜜月関係を継続してきた。トランプ氏がホワイトハウスを去り、国家としてサウジに特別な配慮をする必要がなくなったいま、バイデン氏も主張すべきことは主張する姿勢を示した。
攻撃後、現地の米軍部隊とクルド部隊は油田地帯で軍事演習を実施した。クルド人はいわゆる「シーアの三日月地帯」に打たれた楔であり、またトルコの領土的野心に立ちふさがる壁となる、反米色の強い中東における米国の強力な同盟勢力である。シリアからの軍事的撤退を突然発表したトランプ氏とは異なり、バイデン大統領はクルド人との提携関係をより強固にしていくことを示した。バイデン大統領の「警告」は、イランだけにとどまらず、米国の同盟勢力に対するメッセージにもなったとみたほうがよい。
Roni Namo
東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受け、恐らく日本で唯一クルドを使える日本人になる。昨年7月、日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指し修行中。
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