トルコでクルド系政党「HDP」が解党の危機-武装闘争に発展する可能性も

18日、トルコの検察はクルド系政党・人民民主党(HDP)を国家の一体化を脅かす存在だとして、憲法裁判所へ解党を申し立てた。検察は20もの証拠を並べ立てているが、証拠というより言いがかりに近い。HDPの議員がトルコ軍の越境作戦を批判したというものまで、証拠としてあげられている。与党に与しない、クルド人としての立場で主張することが、国家への反逆行為とみなされているのだ。(写真はYahoo画像から引用)
検察庁はHDPとPKKの間に何ら違いを見出すことはできないと主張する。確かにHDPはPKKと根本的なイデオロギー、党派的性格は共有している。PKK以前、トルコのみならずクルド運動は有力部族、名家出身の人間が率いることが多く、小作人、労働者といった庶民と断絶があった。名家出身者ではない左翼学生が結成したPKKはその構造に初めて風穴をあけた。彼らの最初の矛先はクルディスタンの近代化、民主化を妨げる部族勢力に向けられた。PKKの反部族イデオロギーは、広範な層の政治参加を促しクルド人の間でも大衆政党が生まれていくことになった。PKKに同情的、近いスタンスであるという理由で、クルド系政党を国家への脅威だと主張するのは暴論だ。
今回の一件は、議員の不逮捕特権の剥奪、元共同代表の逮捕等々、政権与党の公正発展党(AKP)による長きに渡るHDP弾圧の総決算並びに、2023年の総選挙に向けた布石であることは疑いようがない。AKPの重鎮は同党の治世下で政党の閉鎖は困難になったが、あらゆる党が閉鎖を免れるということはありえない、と暗にHDPの閉鎖を仄めかした。最終的に司法が決定するが、AKPはその決定に影響を及ぼせるということだろう。
また、HDP解党はAKPの補完勢力を大いに喜ばせる材料となる。トルコ人至上主義政党・民族主義行動党(MHP)はHDPの閉鎖を訴えてきた。AKPはイスラム的価値観だけでなく、MHP的なトルコ人の反クルド的感情にも訴求する必要がある。総じて言えば、政府は欧米諸国との関係に悪化に端を発する経済の低迷と庶民の生活の不満のはけ口をクルド人弾圧に見出してる。
既にトルコの議会制民主主義は有名無実化して久しい。ただ、クルド系政党の解体は、トルコの憲政史上珍しいことではない。人民民主党(HADEP)の解党とそれに続く混乱は記憶に新しい。クルド系政党でなくとも、アドナン・メンドレス元首相の民主党のように軍・財閥支配に挑戦した政党は解体されてきた。今やスルタン以上の権力を誇るエルドアン大統領も当初は、近代トルコの思想家ギョカルプのイスラム的な詩を朗読しただけで追及されていた。トルコの民主主義の死を議論する向きもあるが、そもそも不完全な民主主義国家であることは留意する必要がある。
懸念すべき問題は、議会から締め出されたクルド人が武装闘争に活路を見出すことだ。トルコ領南東部、クルディスタンは2015年後半から2016年前半にかけて内戦状態にあった。PKKの都市ゲリラ部隊・市民防衛隊(YPŞ)が主力となり、クルディスタン各地の都市が同時に戦場となった。YPŞは最後の都市ヌサイビンで半年に渡り孤立無援の中抵抗を続け、クルド武装勢力の作戦遂行能力を見せつけた。PKKはその蜂起以来、小規模なゲリラ攻撃しか遂行していない。HDPの解党が次の蜂起の機会となるのか、憲法裁判所の決定が注目される。
Roni Namo
東京在住の民族問題ライター。クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。2020年7月、日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指している。
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