“文明の揺籃地”で異変-チグリス、ユーフラテス川流域の深刻な渇水は人災との見方

古代文明を育んだ中東のチグリス川、ユーフラテス川が深刻な水位低下に苛まれている。国際連合人道問題調整事務所は、シリアとイラクにおける旱魃について報告書を発表済みだ。ユーフラテス川流域のラッカでは、地元の労働組合関係者がこのままでは労働者たちの生活に支障をきたす水準になると危機感を露わにする。イラク・クルディスタン地域、ダルバンディハンダム発電所の労働者はこのままでは昨年度より低い水準の電力しか発電できないと明かした。(写真はユーフラテス川、Yahoo画像から引用)
イラクといえば、イスラム国がモスルダムを爆破するか、もしくはテロとの戦いによる保守点検の不足で決壊が危険視されていたことがあり、ダムの渇水が問題となることに隔世の感を覚える。
ユーフラテス川、チグリス川の水源はアナトリア、つまりトルコ領内にある。そのトルコも今年初めからダムの貯水量低下に苦しんでいた。今年1月、イスタンブール上下水道局は、都市部へ給水するダム群の貯水率が平均19%程度しかないと報告した。ダム貯水率の低下の直接の原因は降水量の低下である。大河の水位低下は天災にみえるが、イラク、シリアといった下流に位置する国々はトルコがダムを堰き止めていることが原因だと非難する。
シリア国営通信は、ラッカ県知事の言葉を引用し、トルコが本来シリアに流入する水量を減らしているのが、昨今のユーフラテス川の水量減少の理由と断じた。イラク水資源相は10日、テレビ番組に出演し、このままではユーフラテス川からの取水量は激減すると危機感を露わにした。イラク・シリア・トルコの水資源管理協定に違反すると付け加えた。9日、トルコに対し「痛みを共有し前向きな取り組みをすることを呼びかける」と声明を発した。
トルコはこれまでに、占領下の北シリアで水道を遮断した疑惑が持たれていた。シリア国営通信は先月、トルコによる断水によりハサカで住民の苦しみが広がっていると報じた。そして今月8日、ハサカでトルコによる断水から12日後はじめて揚水を再開したと伝えた。ただ、この問題は現在進行形で続いており、17日、同通信はトルコと傘下勢力が国境の街セレカニエ(ラスルアイン)で、給水所への給電されるべき電気を「盗電」していると報じた。
今回、トルコがダムを堰き止めていたとしても、水不足により自国の水確保を優先した可能性が高い。下流国への圧力を意図したものでないにしろ、これら国々のトルコに対する不信感はさらに強固なものとなった。
トルコによる「堰き止め」ないし「断水」の被害を一番に蒙るのはユーフラテス川流域に生活するクルド人だ。クルド人は盛んに水問題を反トルコのプロパガンダとして世界に発信している。
シリアのクルド系テレビによると、クルド人活動家は「ユーフラテス川からシリアの分の水を与えよ」とのハッシュタグを用いたキャンペーン開始したとのことである。ダムの町タブカの自治組織が、トルコにユーフラテス川への放水を勧告したのも、その一環だ。トルコはクルド側のプロパガンダにすかさず反応し、テロリストの嘘と断じた。
これら大河の水源はトルコ領に存すると前述したしたが、付言すると、クルディスタンの領域であるアナトリア南東部に存する。水源をトルコ政府よりクルド人が適切に管理できるのはないかとの期待は、クルド人の自治獲得を後押しする力となる。
クルド勢力が、水源の公平な管理を打ち出せば、下流の国々は支持する。クルディスタン独立までいかずとも、イラクのクルディスタン地域政府ような半独立化は下流の国々にとって利益となるであろう。
水源管理問題といえば、日本人は中国によるメコン川源流の堰き止めと、水を武器にした下流の東南アジア諸国への圧力を連想するかもしれない。中東でも大河の水源管理問題は深刻で、戦争や民族独立にも繋がる可能性があり、目が離せない。
Roni Namo
東京在住の民族問題ライター。クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。2020年7月、日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語も学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指す。
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