パキスタンが米印の“共謀”を非難-絡み合う米中・印パの対立構造

中国が主導する経済戦略「一帯一路」。パキスタンにおける開発計画、中パ経済回廊(CPEC)トップの発言がちょっとした物議を醸している。パキスタン首相補佐官ハリド・マンスール氏は、CPECの会合で「米国とインドが共謀し、CPECを妨害している」と発言した。ハリド氏は米国はパキスタンを「一帯一路」から離脱させようと企んでいると非難した。CPECは一帯一路のなかでも重要な存在である一方、多くの課題も抱えている。米中対立の行方にも大きな影響を与えうる。(写真はYahoo画像から引用)
パキスタンといえば、かつては南アジア地域最大の米国の同盟国であった。パキスタン最大の敵であるインドは非同盟諸国の一員であり、旧ソ連と接近していたこともあり、冷戦構造、地域の対立関係が双方を接近させた。また、パキスタンのイスラム主義的傾向は、反共の米国にとって都合のよいものであった。
1979年末のソ連によるアフガニスタン侵攻の折には、隣国という立場を生かし、イスラム主義者の傭兵の出入口、補給基地、訓練基地として、米国及びソ連と対立していた中国の反ソ活動に大きく貢献した。しかし、かつて支援したイスラム主義者が今度は米国に牙を向くようになると、彼らを匿い利用するパキスタンとは徐々にすきま風が吹くようになってきた。
米国が追跡に血道をあげたビンラディンは、イスラマバード近郊に堂々と居を構えていた。トランプ政権時には、「米兵を殺すテロリストを支援している」として巨額の軍事援助を停止した。また、最近のタリバンによるアフガニスタン全土制圧にもパキスタンの影がちらついた。
米国は、アフガニスタンにおける作戦のため空域利用に関しパキスタンと交渉を続けているように、簡単に関係を断ち切れない事情もある。パキスタンは、米国とは別に、印パ対立の関係から隣国である中国とも「古い友人」とも形容される友好関係を長年構築してきた。近年まで中国との関係は、米国の気にするところではなかったが、中国が急速に台頭し海外への野心を露わにするに至り、米国も中パの同盟ともいえる関係を苦々しく思うようになってきた。
米国も中国の圧力に苦しむインドと急接近し、インドは日本も参加するQUADと呼ばれる戦略的枠組みに参加している。冷戦構造が崩壊し、対立関係が複雑化するなか、前述の発言は、パキスタンが米中対立の最前線にもなりつつあることを示唆している。
海港グワダルや鉱山などパキスタンにおける一帯一路の重要な拠点の多くは、バローチスタン州にある。バローチスタンは印パ分離独立の際、半ば無理やりパキスタンに併合され、民族問題が燻ってきた。近年、中国がバローチスタンでの開発に力を入れだすと、パキスタン連邦政府とともにバローチ人を抑圧する構造が生まれ、中国人襲撃事件の多発など問題が複雑化した。バローチ人イラク・シリアでイスラム国が勃興し、同盟国トルコがそれを支援していることが濃厚になると、米国は彼らと戦うクルド人との同盟関係を深化させた。
忘れられつつあったクルド問題は突如、世界の注目を集めることとなり、クルド人は中東安定のカギを握る。バローチ問題は、忘れられる以前にそもそも認知されてると言い難いが、テロ対策、中国の侵略に抵抗する勢力として世界にアピールするチャンスが生まれている。
在米バローチ団体は、米国議会にパキスタンへ圧力をかけるよう働きかけている。一方、バローチ人はクルド人に比べると、まとまりに欠けるとされる。バローチ人が米中対立のプレーヤーになれるかは、当事者である彼ら次第であるが、私たちもバローチ問題の重要性が急速に高まっていることを認識する必要がある。
Roni Namo
東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指している。
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