プラスチック諸問題解決に正答はない‥のか?①不都合な真実
海洋プラ、リサイクル(循環利用)、脱炭素、資源枯渇‥プラスチックが社会に提起する問題は数多いが、それに対する解答はいくつか提示されてはいる。しかし、それらは完全なる正答とはいえない場合も多い。そんな実情を、東京大学 講師である中谷隼(なかたにじゅん)氏と共に紐解いていく。
日中でのPETリサイクルのLCAを比較
中谷氏は現在、東京大学大学院工学系研究科 都市工学専攻・講師という職位にある。専門分野は環境システム工学でライフサイクル評価(LCA)、物質フロー(MFA)、プラスチックリサイクルだ。
2001年、東京大学都市工学科卒業後、同大学で博士課程を修了、化学システム工学、都市工学などの研究室で助手、助教などを経て現在にいたる。
中谷氏が初めてプラスチックのリサイクルの研究に関わったのは、2006年頃のこと。かねてから環境評価システムをテーマにしてきた同氏だが、当時所属していた研究室で、環境省の研究費によるプラスチックリサイクルの環境評価に携わったという。
その頃の廃プラといえば、中国に資源として輸出されている量が多く、PETボトルも国内発生の約半分は中国へ輸出されていた。
しかし環境省は、プラスチック資源の国内循環を推進しており、海外へ輸出した場合と国内でリサイクルした場合の環境評価(GHG排出量)の実証を行った。そこで中谷氏が用いた評価方法が「LCA」だった。
国内より中国でのリサイクルの方が、環境負荷が低い!
中国でのPETボトルのリサイクルは、多くが繊維(綿状)へとするもので、品質はそれほどいいとはいえず、ぬいぐるみの中綿などに用いられていた。しかしこれはアメリカなど国外にも輸出され、大きな需要があったという。
方や日本のPETリサイクルは、見るからに綺麗なフレークやペレットへ加工しているため、環境負荷も少ないものと思われた。
しかし、実際に数年の調査によりLCAを弾き出したところ(2010年)、中国へ輸出してリサイクルを行う方が、GHG排出量が少ないことが分かったのだ。
PETボトルのマテリアルリサイクルをLCAで評価する場合、石油からPETを作る際のGHGを差し引いて、リサイクルの効果を算定する。また日本のケミカルリサイクルでは、品質をかなり高度にするため相当量のエネルギーを消費している。
図を見ても分かるように、PETボトルのマテリアルリサイクルは、確かに環境負荷低減(GHG排出量低減)に貢献はしている(折線グラフ)。しかし、ケミカルリサイクルにおいては負荷はプラスに働いてしまっている。
逆に中国でのリサイクル、すなわち日中間マテリアルリサイクルでは、環境負荷が日本に比べ大きく低減されているのがわかる。
「これは、中国が日本からの使用済みPETボトルを原料として購入することで、中国で石油からPETを生産するプロセスが不要になり、その分GHGの排出が減ることが大きく影響しているのです」(中谷氏)
さて、ここで顔色を変えたのが環境省である。彼らだけでなく、評価した中谷氏自身も、評価結果が出るまでは国内のリサイクルの方が環境負荷は少ないものと考えていた。中谷氏の行なったLCAは、国内循環を推進したい立場からは、まさに「不都合な真実」だったのだ。
「私はその後、他方面でもLCA計算をやってきていますが、稀に予想したのとは逆の結果が出てきてしまうことがありますね」(同氏)
一般的に環境にいい、と思われていることが、実は逆の影響を与えている、ということは、実は世の中には、まだまだあるのだ。(続く)
(IRuniverse kaneshige)
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