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ベトナムの電気自動車(EV)メーカー、ビンファスト、999台を米国に向け初出荷 

 ベトナムの自動車メーカー、ビンファストは11月25日、ベトナム北部最大の港湾都市ハイファンの港から米国に向け、電気自動車(EV)999台を出荷した。

 

 ベトナム共産党・ホーチミン共産党青年団の機関紙「トゥオイチェー」の同日付オンライン版の記事によると、史上初となる米国に向けてのEV車の出荷式典は盛大に行われ、ファム・ミン・チン首相も出席した。

 

 首相は「ベトナム・ブランドの自動車が世界市場に参入することを、私たちは誇りに思う。これはベトナム共産党と国家の正しい方向性を再確認し、独立、自立した経済の構築に大いに貢献する」と述べ、自動車産業の育成と促進を、国家を挙げて取り組むとした。

 

 式典には駐ベトナム米国大使のマーク・ナッパー氏も出席、「米国はビンファスト社がEV生産のための工場をノースカロライナ州に設立することに感謝の意を表します。両国の関係が強化されることを誇りに思っています」と同社の米国進出に歓迎の意向を示した。

 

 今回出荷されるのは5人乗りスポーツ用多目的車(SUV)の「VF8」で、船は米カリフォルニア州の港を目指し出港した。
 

 

バイデン大統領も歓迎するビンファストの米国進出

 

 ビンファスト社はベトナム最大のコングロマリット(複合企業)、ビングループの自動車部門として2017年6月に設立された。2025年までに年間50万台の製造体制を築き、東南アジア最大の自動車メーカーになることを目標にしている。

 

 アメリカ市場への進出も積極的で、今年3月、米南東部のノースカロライナ州に最大20億ドル(約2783億円)を投資してEVの生産工場を建設することを発表した。2024年7月の稼働を目指しているという。設備投資は最終的に40億ドルとなる見込みだ。7月13日付の日本経済新聞電子版によると、同社は米シティグループ、欧州金融最大手のクレディ・スイスと少なくとも合計40億ドル(約5565億円)の資金調達に向けて協力する契約を結んだという。

 

 同工場ではEVに加え、EV用バッテリーも生産する予定だ。バイデン政権の目玉政策で今年8月に成立した、EV車を購入した際の消費税控除などが盛り込まれたインフレ抑制法(IRA)が適用される見込みという。

 

 バイデン大統領も同社の米国進出を歓迎しており、3月30日、「本日、ビンファストは、ノースカロライナ州に電気自動車とバッテリーの製造施設を建設し、40億ドルで7000人以上の雇用を創出すると発表しました。これは、私の経済戦略が功を奏した最新の例です」とツイートした。

 

 現地ベトナムの邦人向けニュースサイト「VETO JO」の11月18日配信の記事によると、ビンファスト社は、来年(2023年)1月に米国で新規株式公開(IPO)を実施する計画だという。調達資金は10億ドル(約1391億円)になる見込みという。

 

IRA適用の障害とならないか中国CATLとの業務提携契約

 

 米国に向けての初出荷、ノースカロライナ州での新工場建設に加えて、米国での新規株式公開。すべてが順風満帆に見えるビンファスト社の米国進出。だが、ここに来て、懸念材料も持ち上がっている。

 

 同社は10月30日に大阪で突如、電気自動車(EV)用バッテリー世界最大手である中国の寧徳時代新能源科技(CATL)との間で戦略的事業提携契約を締結した。

 

 IRAはEV購入の際の税額控除を受ける際の前提条件に、電池製造に不可欠なリチウムについて米国もしくは米国と自由貿易協定を結んでいる国から調達するよう義務つけている。

 

 無論、中国は対象外の国である。業務提携契約は特に触れられていないが、今回の中間選挙でも共和党が上院の議席を守るなど、新工場建設予定地のノースカロライナ州は非常に保守色が強い地域だ。米中関係が緊張すれば、CATLとの業務提携も問題視されかねないどころか、地元住民による新工場建設反対運動といった不測の事態も招きかねない。

 

初出荷を慶事として祝うベトナム国民

 

 盛大に行われた出荷式典で、親会社ビングループの副会長兼最高経営責任者(CEO)を務めるグエン・ベト・クアン氏は「ベトナム自動車産業界の歴史的マイルストーン。ベトナムが国際市場で競争できるハイテク製品の習得と生産に成功したことを誇りに思う」と述べた。また、米国向け初出荷台数999はベトナムでラッキーナンバーとされる9を並べることで縁起をかついだ。

 

 中国のCALTとの戦略的事業提携契約など、経済安全保障を懸念する米国から今後、説明を求められることはあるにせよ、ベトナム全体は、今回の史上初となるEVの米国に向けての初出荷を国の慶事として歓迎しているという。

 

 日本国内に約48万人(2022年6月現在)いるベトナム人コミュニティも例外でなく、高度専門職人材のITエンジニアとして活躍するトォ・グエン氏は「ビングループはもともと不動産業で有名な会社。自動車産業に力を入れるようになったのはほんのここ数年のこと。それなのに米国向け輸出をするまでになったのは本当にすごい」と喜んだ。

 

 ビンファストは会社設立から僅か5年で米国向けEV車出荷を成し遂げた。親会社ビングループの惜しみない財政支援に加え、テスラ、BMW、トヨタ、日産といった世界的大手自動車メーカーから技術者、経営者を積極的に採用したことも背景にある。米国法人フォルクスワーゲン・オブ・アメリカで副会長を務めたミヒャエル・ローシェラー氏が一時期、社長を務めたこともあった。

 

 ベトナムで12年にわたり、進出企業の人材採用を支援するGrasp!(GRASP CO.,LTD)の代表取締役、熊澤琢光(たくみつ)氏は「ベトナム国内企業のトップランナーとして、グローバル市場へ打って出る、本格的な第一歩を踏み出したという印象だ。同社は年始にかけてNY市場への上場を控える。ベトナム国内経済が不動産バブル崩壊の危機や相次ぐ官民の汚職事件などにより暗い影を落としている昨今、これは数少ない明るい話題だ」と官民あげての慶事となっている背景を説明する。

 

 ベトナム人にとって「アメリカ」はベトナム戦争で激しく戦ったかつての敵国であると同時に、若い世代にとっては「強い憧れ」の国でもある。その米国に対して自国ベトナムの自動車メーカーが進出することは一企業の海外進出に終わらない強いインパクトがあるようだ。

 

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本田路晴
東京都武蔵野市育ち。読売新聞特派員として1997年8月から2002年7月までカンボジア・プノンペンとインドネシア・ジャカルタに駐在。

その後もラオス、シンガポール、ベトナムで暮らす。東南アジア滞在歴は足掛け10年。

趣味は史跡巡り。2022年9月より、沖縄平和協力センターの上席研究員(非常勤)。

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