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Foss博士が提起「化石燃料と同等のエネルギー供給は可能か」 政策研究大学院大の講演で

 東京・六本木の政策研究大学院大学(GRIPS)で2023年4月28日、米国ライス大学ベーカー公共政策研究所フェローのMichele Foss博士が「エネルギー転換と重要鉱物資源―米国の取り組みと日本―」と題して講演をした。博士はその中で「CO2排出実質ゼロ(ネットゼロ)のシナリオで化石燃料と同等のエネルギーを供給することは可能か」と問い、既存のシステムだけでは不十分だという問題を提起した。

 

講演するFoss博士

 

 Foss博士は、テキサス州ヒューストンのライス大学にあるベイカー研究所(ブッシュ大統領時代の1989~92年に国務長官を務めたジェイムズ・ベイカー氏が主宰)のエネルギー研究センターのエネルギー・鉱物資源・材料担当として2018年から重要鉱物資源の調査研究を主導している。ルイジアナ大学で資源を学び、コロラド鉱山大学で資源学の修士、ヒューストン大学でエネルギー経済学で博士号を取得した。G20会合に招かれて重要鉱物指標の作成などについてスピーチをしたり日本貿易機構(JETRO)など日本の関係機関との共同研究を行ったりもしている。

 

 この日の講演では、「ネットゼロ」を実現するために化石燃料を使わないことにした場合、他のエネルギー資源は十分にあるのだろうかという点と、EV化に欠かせないリチウムなどの鉱物は医療や半導体、国防といったほかの分野で必要としている量を奪い取っていないかという点について考える必要があることを強調した。

 Foss博士の議論で特に示されたのが「燃料鉱物」と「非燃料鉱物」の生産量の比較だ。2021~22年の燃料鉱物の生産量の比較では、燃料鉱物87%にたいして非燃料鉱物は13%。博士は「もし化石燃料を使わないことにするならば、この87%相当分のエネルギーをほかの資源で供給しなくてはならない」と指摘。バッテリー金属・素材は単にエネルギーの貯蔵に寄与するだけだとして、「ネットゼロ」への行程でこうした置き換えは果たして可能であるのかを直視する必要があることを訴えた。

 

 「再生可能エネルギー」でも、風力発電の例を引いて、風を受ける羽根の素材がプラスチックであること、発電装置の主要部分には銅が使われていること、風車事態を支える土台には大量のセメントが必要なことなどを挙げて、既存の鉱物資源の寄与なしで「再生可能」は実現できないことも指摘した。そうした既存の鉱物資源を供給する鉱山は何十年も稼働を続けてきたものが多く、環境保全の問題と絡んで新規開発が難しく、鉱物の品質低下や産出量減少が進んでいる現実があるということにも目を向けるべきだと訴えた。

 

 リサイクルが解決策にならないか、との私の問いに対してFoss博士は「補充的な面で役立つと思うが、実際には量的に不十分と言わざるを得ない」との考えを示した。

 

 気候変動のさらなる悪化を食い止めるべく「ネットゼロ」に向かう潮流を、止めるべきでも遅らせるべきでもないことに議論の余地はないであろう。ただ、その一方で「悪者」にされがちな化石燃料の果たしてきた、そして今もまだ担っている役割を、単にやめればいいだけではない現実があることを、Foss博士は私たちに突き付けた。

 

(IRuniverse 阿部治樹)

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