第1回サーキュラーエコノミーシンポジウムat六本木 LIVE Reportその4(パネルディスカッション)
2023年4月26日、IRUNIVERSE社主催の第1回サーキュラーエコノミーシンポジウムは六本木ヒルズの六本木アカデミーヒルズ タワーホールにて開催された。LIVE Report第4弾のラストは、経産省吉川氏含め全ての講演者がステージに並んで、ファシリテータの原田幸明氏および会場からの質問に答えるという恰好となりおおいに盛り上がった。
(関連記事)
・第1回サーキュラーエコノミーシンポジウムat六本木 LIVE Reportその1(経産省、Veolia、共英製鋼、JAERA)
・第1回サーキュラーエコノミーシンポジウムat六本木 LIVE Reportその2(イボキン、digglue、サイクラーズ、TBM)
・第1回サーキュラーエコノミーシンポジウムat六本木 LIVE Reportその3(森とまちコンサル、アルハイテック、錦麒産業、東京製鐵)
ファシリテーターとしてサステイナビリティ技術設計機構代表理事/(国研)物質・材料研究機構 名誉研究員の原田幸明氏が登壇。
講演者も全て壇上へと上がり着席する中で、投げかけられた質問に対してそれぞれが回答を行うというスタイルでパネルディスカッションが進行した。
最初に原田氏は「サーキュラーエコノミーは受動的に製品をリサイクルする『使用済み経済』ではなく、最終的にリサイクル業を無くす程の可能性を持つものだ。この取り組みで疑問視される『経済をいかに元気にしていくか?』という視点からこれを解決出来る様な内容を提示してほしい」と語られた。
最初の質問は「サーキュラーエコノミーを主体的に進めるバリューチェーンを推し進める存在は誰になるのか。動脈産業も静脈産業も出てきたが、これらの中でイニシアチブを取れる存在はいるのか?」という内容である。
以下がそれぞれの発言者の回答となる。
経済産業省 吉川氏
「バリューチェーンに関わる皆が全体で牽引していくべきであり、国や自治体はそこに纏わるリスクを負っていく。サーキュラーエコノミーはグローバルであれ地域であれ『価値のある物』として定着させ回していく必要がある。この流れをいかに作り出せるかが重要で、各国がしのぎを削る中で日本もビジネスモデルを作り飛び込んで行かなくてはならない。」
ヴェオリアジャパン株式会社 宮川氏
「1997年に京都議定書が定められ、2015年のパリ協定を経てどれだけ環境に対する意識が変革されてきたかという点は注目に値する。色々なところで取り組みが偶発的に行われた結果、変革が生まれる。時代に合わせたニーズに誰が手を挙げられるかが重要だ。」
共英製鋼株式会社 小野氏
「企業が産業の中で技術交流を図っていく事が肝要である。」
日本自動車リサイクル機構 酒井氏
「自分の立ち位置を明確にし、それを意識した取り組みが必要となる。」
株式会社エコアール 石井氏
「自動車リサイクルも以前と現在で自動車リサイクル法を軸に大きく様変わりしている。サーキュラーエコノミーも法規制で同じ様に発展・変化していくのではないだろうか。」
株式会社イボキン 松原氏
「大手メーカーとリサイクラーが対話する機会は着実に増えており、全体的な傾向としてリサイクル率を上げていきたいという声が各企業トップからも挙がっている。まずは対話を行い探っていく事が必要だ。」
株式会社digglue 原氏
「どこのメーカーさんも手を挙げないなら、私達が率先して取り組みます!」
サイクラーズ株式会社 福田氏
「定まった流れではなく、誰かが適当に好きな事をやった結果としてエポックメイキングな事が起きるのではないか。」
株式会社TBM 大場氏
「サーキュラーエコノミーを推し進める文化的基板を作る企業と、新しい産業を生み出すというレベルで考えている企業。この2軸が今後を牽引していくのではないだろうか。」
森とまちコンサルタント株式会社 小西氏
「新しい技術やシステムを先行させる以上に、今現在小さなコミュニティからでもサーキュラーエコノミーの機運を作り活動を進めていくことが大事。そこに後から技術が追いつく流れでも良いと考える。」
アルハイテック株式会社 水木氏
「既存の枠に捕らわれない大胆なビジネスモデルを提案する企業が鍵になる。」
錦麒産業株式会社 斉氏
「ひとりでやれる事はどうやっても限られるので、業界全体の力を結集させて事にあたるのが最善である。」
東京製鐵株式会社 伊藤氏
「大事な要素として規制と経済が挙げられる。今後の取り組みはその両面に沿う形で進んでいくのではないか。」
2つ目の質問は「リサイクルのブームには凸凹した波があると感じているが、関係企業としてはどういった肌感か?」というものである。
これには以下の3者が解答を示した。
日本自動車リサイクル機構 酒井氏
「そもそもサーキュラーエコノミーという流れに進むのか、若干の疑問がある。1972年に発行された『成長の限界』という書籍で世間は大騒ぎをしていた。
しかし技術的革新により、当時指摘された石油埋蔵量は限界値が減るどころか増えてしまう事となった。ブレイクスルーとなる技術が提示された段階で、またサーキュラーエコノミーのあり方は変わるのではないだろうか。」
株式会社TBM 大場氏
「リサイクル関連は上り調子ではあった。近年再生可能エネルギーブームが来たことでやや関心が薄れてしまった側面はあるが、現在また改めて機運が向いてきているという実感を持っている。」
東京製鐵株式会社 伊藤氏
「日本は忘れるのが早く、また盛り上がるのも早い。リーマン・ショックの様な危機が来ると皆何かやらなければならないと思うが、影響が去ったらそれを忘れてしまう。中国が好況だと知れば、カーボンニュートラルやリサイクルといった諸要素を放り投げて輸出一辺倒になった印象を持っている。次に大きな勃興が予想されるインドが好況となった時、同じ轍を踏むのではないだろうかと心配している。」
3つ目の質問は「動静脈連携が必要であると騒がれているが、そこに至る為に必須となる要素は何か」という内容だ。
経済産業省 吉川氏
「デジタル化である。生産者側とリサイクラー側が分離した状況が続いた結果、お互いに情報を共有できないよくわからない製品を処分しなくてはならないという状況が続いていた。その滞りを解決する要素としてデジタル技術を使う事で、製品の情報を円滑に共有し『流れやすく』していく事が重要だ。」
ヴェオリアジャパン株式会社 宮川氏
「動脈産業も静脈産業も、共に話し合えるテーブルを作るべきである。それもお互いが向かい合って話し合うのではなく、お互いが同じ側を向いて横一列に並んで話し合えるような場所にする。それが今後必要となってくる。」
共英製鋼株式会社 小野氏
「これまで生産者側が有利でありリサイクラー側にともすればしわ寄せがくる様な流れがあった。しかし最近ではそれが変わりつつある。環境に対する意識の高まりを政府側からも後押しして欲しいし、その為のツールとしてデジタル化は必要となる。」
日本自動車リサイクル機構 酒井氏
「動脈産業がサーキュラーエコノミーに対し旨味を感じる仕組みが必要だ。自動車などは16~17年程の『時間の距離感』がリサイクル過程で横たわっているので、これを意識しなくてはならない。」
株式会社エコアール 石井氏
「大量生産大量消費という風潮がサーキュラーエコノミーを軸とした文化に変わりつつある。日本車は年間で500万台程が国内生産され、150万台は海外へと輸出されている。日本車はリサイクルしやすい設計となっているが、海外流出後の取り扱いについて追跡が行えないのでは意味がない。自動車産業もまだまだガソリン車、ハイブリッド車、電気自動車といったバリエーションで生産や取り扱いが進む中で、電炉を使った『全部利用』技術の様なやり方を国内のみならず海外に向けても大きく展開していく必要がある。」
株式会社イボキン 松原氏
「サーキュラーエコノミーに取り組んだ場合の評価基準を適切に定めて、企業が意欲的に取り組める仕組みを作るべき。」
株式会社digglue 原氏
「日本の特徴としてプラットフォームを設けたらそれに右に倣えの精神で『囲いたがる』癖がある。そのためデータ連携がとても行いにくいので、サーキュラーエコノミーを進めるにあたりオープンなデータネットワークを構築する必要がある。」
サイクラーズ株式会社 福田氏
「企業の取り組みとしてサントリーホールディングス株式会社の行っているボトルtoボトルというリサイクルシステムは注目に値する。サーキュラーエコノミーによりこういった取り組みが着目される中で、多くの企業が数撃ちゃ当たるの精神でどんどん技術を研究・開発していくべきである。」
株式会社TBM 大場氏
「サーキュラーエコノミーを行うにおいて、製品に対する正しい情報や企業間での共通認識が必要となる。お互いにズレのない状態に知識を落とし込んだ上で、デジタル化する事でサーキュラーエコノミーは加速していく。」
森とまちコンサルタント株式会社 小西氏
「宮崎県の食品業界では、長らく問題であった廃棄物を有効利用するシステムを導入。その結果回転率は以前の2倍にまで上がったとの事である。自分達の業界以外の別の業界の事例も参考にしながら、自分達の力で何が出来るのかを考えていくべきだ。」
アルハイテック株式会社 水木氏
「自分が運送会社在籍時に、メーカーと排出された資源とを自動でマッチングさせる『エコ蔵システム』というビジネスモデル特許を取得している。当時は誰にも相手にされなかったシステムであるが、サーキュラーエコノミーの流れがある現在は役に立つ物と確信している。是非使って貰いたい。」
錦麒産業株式会社 斉氏
「我々は生産者側ではないが、事業者同士が協力し寄り集まっていくことで変化するニーズに応える事が重要だと考える。」
東京製鐵株式会社 伊藤氏
「デジタル化を進める前に『標準化』が必要である。現在スクラップの検収は人間の手に依存をしている。それがどういう事かといえば、日本の鉄を例に取ってもJIS規格が存在するもののほぼそれでは買われず独自規格で導入したがる企業ばかりなのが根底にある。個々の規格に合わせてしまえば流通が行いにくく、リサイクルに必要なコストも大きく掛かる。規格の力が強い欧米や中国の様に規格に沿った標準化をする事でAIを活用する余地が出来、より循環しやすい状況が生まれる事で動静脈連携が行える。」
最後の質問は「サーキュラーエコノミーとは」というシンプルな内容となった。
経済産業省 吉川氏
「新しい成長である。これまで経済成長を追求し続けた結果、種々の問題を見逃してきてしまった。これを解決する事で、今後の世界経済が目指す羅針盤に日本がなっていく事を期待したい。」
ヴェオリアジャパン株式会社 宮川氏
「これまで自分はIT系に進んだ他の同輩と違い、環境に軸足を置いて様々な活動に取り組んできた。そのおかげで現在は非常に楽しく有意義に過ごせている。」
共英製鋼株式会社 小野氏
「自社にとって事業が非常にやりやすくなったと感じている。」
日本自動車リサイクル機構 酒井氏
「業界団体の立場から言えば、必要な要素である事を理解した上でまた新しい言葉が出てきたという点に、少しだけノイジーなイメージは持っている。」
株式会社エコアール 石井氏
「工業の農業化と言い換える事が出来る。農業や畜産業はそれこそ全ての物を捨てずに再利用する流れで発展・継続されて来た。農耕を主とする日本人の精神にあった形に落とし込まれている物だと考えている。」
株式会社イボキン 松原氏
「新しい価値基準となるべきものである。」
株式会社digglue 原氏
「不可逆な流れであると考えており、会社としてはビジネスチャンスと環境貢献を両立出来る素晴らしい領域であると見ている。」
サイクラーズ株式会社 福田氏
「創造性を掻き立てられる楽しいことと捉えている。」
株式会社TBM 大場氏
「目指すべき北極星であり成し遂げたい物と見ている。会社としてはビジネスチャンスである。」
森とまちコンサルタント株式会社 小西氏
「サーキュラーエコノミーという言葉を使わなくとも概念として話ができる地域もある為、意識として浸透しているのではないだろうか。」
アルハイテック株式会社 水木氏
「個人的な見方ではあるが、使えるものは使っていくという精神の現れ。欲しがりません、贅沢をしませんという視点である。」
錦麒産業株式会社 斉氏
「進化するスピードの早い物事であるため、こういった交流会を通して知識を学んでいくチャンスになる物であり、またそこしか進むべき道は無いものとも認識している。」
東京製鐵株式会社 伊藤氏
「入社した時から課題として立ちはだかり、実現できると思っていてもなかなか実現出来ない事柄である。学生の時から取り組んでいた、昔から側にいて離れない存在と言える。」
以上がパネルディスカッションの概要である。
今回の内容は、どれも関係者の興味を引き立て、かつ新しいビジネスに繋がる様相を見せていた。今後各業界が連携していく上で大きなマイルストーンとなった事を願いたい。
(IRuniverse Ryuji Ichimura&Tanamachi)
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