金融アナリストの川上敦氏の世界経済動向セミナー#4 金属相場の反発はまだ先
金融アナリストの川上敦氏が定期的に開催しているセミナー「Chuck Kawakamiの金融経済Now」の最新オンラインライブが7月4日に行われた。いつものように各種データを駆使したセミナーの後の質疑応答で川上氏はIR Universeの取材に対し、銅をはじめとする金属相場の先行きについて「米中不動産市況の低迷が足かせになる」と、本格反発はまだ先との見方を示した。
■米住宅経済に陰り、中国は好材料なし
銅相場は下落が続く。海外投資家による売買も売り越しとなり、金属材料への投資家の弱気な姿勢が続いている。
銅建て玉の推移
原因は世界的な景気減速、特に米国と中国の住宅需要が低調であることが背景にある。世界経済の現状は、「米国が1人貢献していて、世界の他の地域は多くがリセッションモード」というのが川上氏の弁。ただ、比較的好調な米経済も、「度重なる利上げが国民の住宅購入意欲に水を差し、住宅価格が下落している」。住宅需要が減れば建材需要が滞り、金属相場に影響している。
米住宅価格動向
川上氏はまた、「中国経済には好材料が見当たらない」とも話す。中国はそもそも中長期的に経済成長が鈍化する見込みで、長期で見た実質国内総生産(GDP)の伸びは既に下落トレンドにある。
中国GDPの長期推移
そのうえで、中国人民銀行は6月20日に、実質的な政策金利である最優遇貸出金利(ローンプライムレート、LPR)を1年物、5年物ともに引き下げた。5年物は不動産ローンの基準となり、不動産市況の停滞が続いていることが窺がえる。川上氏は「銅をはじめとする金属の投資家は、中国経済の回復で何とかなると思っている人が多いが、現時点では回復の兆候は見られない」と話した。
■円だけはどうしても安い
為替は「米ドルの上昇バイアスは少し落ちてきた」(川上氏)のが現状。市場関係者の間では、米利上げはあと2回ほどというのが多くの見方と言い、川上氏によれば「利上げは頂上が見えたとして既に織り込んで、その後を見据えつつある」ことが、ドル買い一服につながっている。
ドルは多くの対他国通貨で横ばいだが、日米金利差が影響し、「円だけは対ドルで安い」という。
ほかには、ロシアの通貨ルーブルは2022年に持ち直したものの、2023年に入りどんと下がっている。「中国のエネルギー需要の先行きに対する疑念を織り込んでいる」(川上氏)という。中国は国債金利も急速に下がっており、良い材料が見当たらないのはここでも同じだ。
■株は世界的にリスクオン
7月初旬の東京証券市場で日経平均株価は終値で3万3000台とおよそ33年ぶりの高値水準にある。これについて川上氏は「株式相場は世界的にリスクオン。米利上げが限定的との見方が広がり、投資家はリスクを全く考えていない状態」と指摘した。日本株の株価収益率(PER)」は14~15倍程度で米株の20倍超に比べればなお安く、「特にTOPIXは割安」(川上氏)。海外投資家による買いは当面続くとの見方だ。
日米株式の株価収益率
■日本企業、ソフトウエア投資にやや積極的
一方、日本経済について川上氏は「2023年1-3月期実質国内総生産(GDP)は1.6%と3期ぶりのプラスになった」と評価した。長く設備投資を控えてきた日本企業だが、特に大企業のソフトウエア投資に積極姿勢が見られ、「今までと少し変わってきている」(川上氏)。川上氏は「株高もこの動きを織り込んでいる面がありそうだ」と話した。
日本企業の設備投資
ただ、経済の現状は楽観できない。輸出額は一見好調に見えるが円安で相殺しているだけで、実は対米、対中輸出ともにさえず輸出量は減っている。消費が伸びない中で生産はあるため、企業在庫もだぶつき始めている。受注は国内外ともにマイナス。給与も固定部分が伸びておらず実質マイナスとなっている。
川上氏は日本の消費者心理について「収入があれば使うという感じで、全体の暮らし向きは傾いているのではないか」と話した。
(IR Universe Kure)
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