キャノン 計測困難なプラスチック片も同時計測可能な高精度選別法を開発
キヤノンは、リサイクルにおけるプラスチック片の種類を選別する際に、判別が難しい黒色プラスチック片とその他の色のプラスチック片を、高精度に同時選別することができるトラッキング型ラマン分光技術を開発した。2024年上期には、本選別法を導入したプラスチック選別装置の発売を予定している。
装置内部イメージ
トラッキングでプラスチック片を選別 非接触測長計とガルバノスキャナー
私たちの生活で幅広く活用されるプラスチックをリサイクルするには、ABS※1、ポリプロピレン(PP)などの種類を正確に選別する必要がある。現在、プラスチック片の種類選別では、近赤外分光法※2が主流だが、家庭用電化製品や自動車の内装などに多く使用される黒色プラスチック片は可視光を通さず反射もしないため、選別することができず、多数が燃料として再利用されている。一方でラマン分光法※3は、レーザー光をプラスチック片に照射し、物質の分子情報を取得する測定法で、黒色プラスチック片も計測できる。しかし、黒色プラスチック片は散乱する光が少なく、他の色のプラスチック片に比べて計測に時間がかかるため、高速に多量の処理が必要なプラスチック選別への適用は困難だった。そこで、ラマン分光法とキヤノンの計測・制御機器を組み合せることにより、1つ1つのプラスチック片の色に合わせた計測時間を確保し、黒色も含めたプラスチック片を高速かつ高精度に同時選別するトラッキング型ラマン分光技術を開発した。効率良く選別すことで、再利用できるプラスチック量の最大化に貢献していく。
トラッキング型ラマン分光技術※3の特長は、キヤノンの計測・制御機器を使い、高速に動くベルトコンベヤー上のプラスチック片の正確な位置を把握し、レーザー照射位置を走査する※4ことで、それぞれのプラスチック片の選別に必要な時間のレーザー光を照射し続けられることだ。非接触測長計「PD-704」(2021年5月発売)は、高速に動くベルトコンベヤーの速度を高精度に計測できる。さらに、ガルバノスキャナー「ガルバノスキャナーモーターGM-2020」(2022年1月発売)は、ベルトコンベヤー上のプラスチック片に合わせて高精度にレーザー光を走査し、走査時間をプラスチック片の色により変更する。これにより、高速にプラスチック片が搬送される中でも、ラマン分光法の課題であるプラスチック片の色の違いによる散乱光量の差をレーザー光の走査時間で解決し、高生産性と高精度の両立を実現する。
つくる責任つかう責任(SDGsゴール12)が国連の開発目標として定められている。キヤノンは、2008年に環境ビジョン「Action for Green」を制定しました。「豊かな生活と地球環境が両立する社会」の実現に向けて、製品ライフサイクル全体での取り組みを通じ、人々の生活をより一層豊かにする製品・サービスの提供と、環境負荷の低減を同時に推進していく。
※1アクリロニトリル(A)、ブタジエン(B)、スチレン(S)からなるプラスチック。熱に強く、衝撃に強い特長がある。
※2測定する物体に近赤外線を照射して、反射や透過など、物体特性に応じた光の吸収を測定し、樹脂の種類を特定する方式。
※3具体的な計測方法は、トラッキング型ラマン分光技術を導入したプラスチックの選別方法のしくみをご参照ください。
※4レーザー位置を連続的に動かして、動く対象物にレーザーを当て続けることで、反射光を取り込むこと。
トラッキング型ラマン分光技術を導入したプラスチックの選別方法のしくみ
①プラスチック片を投入。
②画像認識システムで計測前にあらかじめプラスチック片の位置だけでなく色の明るさや大きさなどの特長を判別。
③非接触測長計「PD-704」でベルトコンベヤーの速さを計測。
④ガルバノスキャナー「ガルバノスキャナーモーターGM-2020」に付けた専用ミラーでレーザー光をプラスチック片1つ1つに追従して照射。
⑤反射したレーザー光や散乱光をキヤノンの開発した受光ユニットで受光。
⑥独自開発した分光ユニットでラマン散乱光を計測。
⑦独自開発した識別ソフトで解析。設定を変更することで、多種多様なプラスチックの選別が可能。
分光ユニットイメージ
装置内部イメージ
ラマン分光方式について
レーザー光を物質に照射することで、物質の化学組織情報を多く含むラマン散乱光と呼ばれる光が取得できる。ラマン散乱光を解析することで、物質の素材を特定する手法が「ラマン分光方式」。有機物の測定に適した方式のため、プラスチックの選別に適している。
(IRuniverse G・Mochizuki)
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