9月1日開催 第1回SEMICON(半導体)サミット④熱論!日本の半導体産業が本当に向かうべき道は?
9月1日開催 第1回SEMICON(半導体)サミット 内容詳報③からの続き
さる9月1日に開催されたiruniverse主催の半導体サミットで、最も秀逸とされたパネルディスカッションの模様を以下に紹介する。モデレーターは総合司会の大山氏。
大山氏の問いかけに講演者が答え、また、フロアからの質問にも講演者が答える、というレスポンス&コールの一体感があり、きわめて充実した40分間であった。
今回設定されたテーマは「日本の半導体産業の向かうべき道」というタイトルであったが、そこで語られたことは、半導体産業だけではなく、日本のもの作り全般にいえる危機感の露われであった。
以下に議論の詳細を続ける。
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「現在の日本の半導体材料に必要なトピックとして何があるか?」という質問に対しては参加者が以下の様に回答している。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社 和田木氏
「まず人材面における不足が著しい。各大学に技術開発援助を行い、将来的な人材の生育を期待するのは欠かせない。
その上で、諸外国が関わる以上機密情報漏洩の対策も行わなくてはいけない。中国やアメリカに技術流出が起きる状況はあってはならないと考えている。
国内の半導体産業の鏑矢として、ラピダスというプラットフォームを盛り上げて行く方向性を作っていく。」
Wolfspeed Japan株式会社 瀧澤氏
「外資という立場から見た際に、日本のメーカーは人材が足りていない。
外資では主にジョブモビリティ(製造メーカー社員の横断的な転職)が活発であり、それにより業界が活性化するという効果がある。
また資金面においても壁は大きく、1兆円規模の投資がバンバン飛び交う世界を相手にする体力が必要だ。」
三菱電機株式会社 半導体・デバイス事業本部 安田氏
「パワー半導体の市場規模自体は半導体全体で5%程の領域である。現状を見てみれば、日本国内でも各社しっかりと戦えている体勢ではないかと思っている。
2000年初頭は学生さんからはあまり興味を持たれていなかったという事もあったが、TSMCが日本に進出してきた事で一気に人材不足が顕在化した。技術系に興味のある人材が減っているので、業界はしっかり自信を持ってアピールした上で人材流出を防ぐ工夫をしないといけない。」
ezCoworks兼神奈川工科大学 江澤氏
「今回講演した中間領域という分野は『前工程と後工程の融合』を行う為に必要な部分だ。
かつてSONYと共同でチップの開発に携わった経験で感じたのは、日本と海外の開発文化に大きな違いがあるという事。
横断的に開発を進めていく海外は、現在アドバンスドパッケージングにおいてもその存在感を強めている。
専門的な知識が無いと分からない領域に必要な人材を掘り起こすと共に、業界全体で人材の流動化と教育をしっかり行っていかないといけない。」
東京エレクトロン株式会社 早川氏
「1990年代と比べて、現在は半導体を取り巻く状況の『全てが』変わってきている。
その為、今の環境に合わせた開発体制という物を築いていかないといけない。
求められる人材は業種によって違う。一例としてアメリカのメーカーはインドに拠点を置いて開発を進めているが、やはりトライアンドエラーを重ねられるだけの数は力という言葉通りの物だと実感する。
24時間、7日間休まずに開発を続けられる体制を築くと共に、必要となるエンジニアを育てていくことが大切だ。」
名古屋大学客員教授 野辺氏
「私自身が流動化しながら歩んできた人間、と自負するところはある。
いわゆるジョブ型雇用を1983年にNECと結んだ後に、Yahoo!BBや海外でのMBA取得、日産への転職等を重ねてきた。最先端の技術を開発しようとするなら、一部の人間はジョブ型雇用という形で入れた方が良い。自身の経験からも、流動性を確保する事は業務効率化に繋がると考える。
現在の日本には投資家も少なくなっていると見ている。経営者がリスクを恐れて控え目になるのは重要な事ではあるが、情報処理分野は短期的な利益を産みにくい傾向であるという事を理解し積極的に投資を行わなくてはいけない。
また、政府もそれをしっかりと後押ししていくべきである。」
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人材の育成と流動性についてどの講演者も熱く語る中で、会場から一つ質問が飛ぶ。
そこで提示された「日本において今後、パワー半導体以外に勃興する可能性の事業は何か?」という問いに対する答えも以下に列記する。
安田氏
「光関係、あるいは高周波技術関連。これは安保に関わる観点から注目されている技術であり、伸びしろがあると考えている。」
和田木氏
「MRAMの様な製品、あるいはフラッシュメモリといった産業がこれに当たると思う。
日本国内でこういった産業を守っていかなければならないし、継続的に進められているスーパーコンピューターについても可能性のある事業と見ている。」
江澤氏
「フラッシュメモリについてはまだまだ伸びると考えている。月間50万枚から60万枚位のペースでの生産が行われているが、倍のニーズに応えられる体制づくりは必要だ。
電子材料やケミカルといった分野にも底力はあると思っている。その上で「プロセスリッチ(困り事ベースの手法構築)」をしていくとともに、人材を合わせて流動化していく。」
早川氏
「ラピダスや政府のプッシュにより、お客様は今後増えていく。
その時日本国内だけでなく、各メーカーが世界を相手に戦う意識を持っていく必要がある。
その為のツールとして、DXやGXといった取組が生きてくると考えている。」
野辺氏
「日本では需要家(最終ユーザー)がいなくなりつつあり、バッテリーEVや再映可能エネルギーといった分野において半導体は必須とされているが自動車事業においてはあまり話が成立しない状況だ。
TOYOTAが2035年までに350万台の電気自動車を売り上げると発表したが、これを達成して貰わないとそもそも投資をしても売り先が無い状況となってしまう。
国内で産業と技術を循環させ海外へ放出するという意味でBEVは重要なファクターであるし、内需が無いままに海外で市場を築けた製品はほとんど無い。
日本が半導体のシェアを取り戻すにあたって、国内での需要がどれだけあるかという点をしっかり見ていく必要がある。」
瀧澤氏
「先に仰られた通り、日本における需要というものをしっかり見ていかないといけない。
日本でビジネスをしていく上でメーカーを応援していきたいし、積極的に参画していく意思を持っているという目で見ていきたい。」
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「需要を活性化する為に、デバイスメーカーサイドとして産業に対しこうなってほしい、これがあってほしいという声があれば」というややファジーな問いかけには以下のような回答がなされた。
和田木氏
「やはりゲーム産業が一番大きかったと思う。半導体やそれを含むプロセッサは非常に重要な要素であるにも関わらず、これを海外に手渡してしまったのは非常に痛い。
今後ゲーム業界、メタバース関連業界が伸びていくという時期にあってこのコアな部分を取りこぼしているのは勿体なく感じる。」
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会場からは「IMFの時に韓国の半導体事業はLG電子からヒュンダイ電子へと統合させ、2台メーカーへと転換を遂げた。
日本の半導体事業を再起させたいというなら、政治的な力を使ってシステムLSI系の工場や会社を統合してエンジニアリングリソースを確保しなくてはいけないのでは?」とやや攻めた質問が出た。
これに対しては2名の講演者が回答を行った。
和田木氏
「学生がそれこそ意図的に来てもらうというレベルで集めた方が良いし、関連企業に積極的に就職を促す土壌を作って10年~20年先を見据えた人材の底上げに取り掛かるべきだ。」
野辺氏
「日本は戦後資源がない中、通産省は当時産業を割り振りしながらコントロールする形で成功を収めていた。
しかし企業が成長すると企業は政府の指揮下から離れ、政府も企業に半ば忖度する様な土壌が生まれてしまった。
現在中国や欧米諸国は産業政策を強化し、税制を変えて投資先をコントロールしている。その一つは公共投資と雇用拡大の為の充電インフラ建設などだ。
市場に対する政府の操作が非常に弱化している為、向かう先の分からない企業が増える前にもう少し積極的に介入する姿勢を見せていくべきだ。
地政学的な貿易摩擦に対処するのはもちろん、世界のエコシステムは個々の地産地消でもって回している。これを海外に吸収されない様に、政府の力強い政策が必要である。」
今回の半導体サミットの様に、政府に対する提言や需要の創出、あるいは各企業の取り組みといった物を話し合い、知見を深めていく機会を今後も継続していくという言葉でパネルディスカッションは締めくくられた。
関連記事: 9月1日(金)第1回 SEMICON(半導体)サミット in TOKYO
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(IRuniverse Ryuji Ichimura)
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