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自然エネルギー財団 問われる今後の洋上風力発電のポテンシャル

2023年11月22日、東京都千代田区の日比谷国際ビル コンファレンス スクエアにて公益財団法人 自然エネルギー財団主催のメディアセミナー「浮体式洋上風力事業化の加速に向けた提言」が開催された。
本記事では質疑応答も含めた大まかな流れを追っていく事とする。
 

 世界各国では浮体式洋上風力発電が盛んになりつつある。
そういった中で日本も、商業重視の早期運転開始を目指す「ファストトラック(Fast Track)」という目標に向かっていく必要があるという。
このファストトラックとは、2030円から2031年の営業開始日を迎える500MWの浮体式洋上風力事業を、領海内に2案件・合計1GWの発電事業として形成する事にある。
設置された500MWの発電設備は将来的に1GW~2GW級のより大規模な設備へ転換する方向だ。

 浮体式洋上風力発電を投入するには幾つかの追い風となる材料が必要だ。
例として設置に際してのインセンティブの様な措置を活用する事により自治体レベルへの話し合いを行いやすくし、知事の参加を積極的にするといった方法が考えられる。
またFITの様な利益確保が行え買取価格を担保し入札を行える方式の整備が急がれると共に、GX基金やJOGMECの活用、適用についての法改正を進める事も視野に入れる必要がある。


 このファストトラックという方式には利点が存在する。
現状浮体式による500MW級発電事業では、該当海域に浮体が30個程必要となる事から、将来に向けて浮体の量産の知見が必要となる。
また事業に用いる為の風車と浮体のデータの「連成解析」が500MW級風車の運用により取得できる。これを将来GW級プロジェクトへ転用する事も可能となるのだ。
とはいえ現在、国では30MW級の発電設備を4箇所設置するという計画に留まっているので、これを大規模かつ予見性のある市場を構築し計画をしていく必要性は高い。


 また制度上の入札システムにも問題があると提言が為された。
制度上入札は初回の一度きりで全ての段取りと費用を決定する事となっている。
しかし建設開始までに市場環境の変化があった場合、費用の増大や交渉が必要な内容が増加するといった不確定要素についての対応が難しくなる。
そこを改善する提案として、最初に設備に関する入札を済ませ、その後時期が近づいた後に海域の占用権や事業支援策といったセクションに対する2度めの入札を行う事で弾性的に対応してはどうかという案が挙げられた。


 自然エネルギー財団の関係者に日本における風力発電事情についても聞くことが出来た。
質疑応答でも挙げるが、国内にはタービンの製造を可能とする事業者は居ない状況である。
その為海外からの事業者招聘という点は喫緊の課題となっており、その技術的出発点まで含めた「Made in JAPANという幻想」から脱却しなければならないという。
国内で必要な事業を行い、知見を蓄積した上でいずれは内製に踏み切れるだけの経験値を積んでいく必要がある。
特に今後の国内におけるエネルギー事業領域における重要な領域である以上、プライドは抜きにして必要な物は必要であるという割り切りは持たなくてはいけないとの事だ。


以下は会場で行われた質疑応答について抜粋したものである。


 Q:浮体式の技術についてはもう確立されているものなのか?五島列島などでやっているが現状進捗が見られない状況で、海外でも始まったばかりである。
既に海外で技術がある前提の話なのか、それとも国内で今後技術開発が進む話なのか?


A:タービンと浮体の2つの要素がある。海外ではタービンは着床式と同じもの、技術的なハードルは無いと言われている。
ただし浮体の量産化はまだ出来ていないという点が挙げられる。
また、領海内で500GWは発電量が出せるのではないかと見込まれている。


 風車は製品としては着床式も浮体式も同じで、それぞれ揺れる角度で制限を掛けていく。
浮体に対する技術検証がまだ出来ていない状況であり、浮体式洋上風力発電そのものが本当に必要なのかという議論もある状況だ。
ただし各国の技術者からは「すでに浮体式洋上風力発電の技術はある」という話が出ているので、無理筋な話という事ではない。
またアンカーとして用いる製品のコストをどれだけ安くするか、浮体をどの様な構造にしていくかという点も議論されている。
現在浮体は50種類程デザインが提案されており、そのうち5種類程が候補とされている。


 日本の中にはタービンメーカーは無く、海外では1基あたり15MWを目指して開発している。その為ベスタスなどの大手風車製造事業者が重要な鍵となっていく。
その為一度、日本に彼らを招いてタービンを作っていく必要がある。
浮体に関しては、タービンとは違い日本国内でも産業として根付かせられる可能性はある。

 

 Q:アメリカやヨーロッパでは違約金を払ってでも風力発電事業から撤退する事業者が出ている。
採算性が取れないという事が起きない様に、事業者が適正な利益を取れる仕組みを考えなくてはいけないのではないだろうか?


A:詳しくは説明していないが、提言書の中ではその説明を行っている。
各産業において「事業者ごとに適正な利潤を得る」というのは大事な要素。
市場の予見性を高める為には、価格以外の予見性が非常に低いという問題がある。
主として送電網の整備や港湾設備、船舶やその運行といった要素が挙げられる。。


 風力発電が盛んな欧州でもカボタージュ規制(沿岸輸送を自国籍船舶で行う規制)がある。
その為企業や国家間による競争ではなくリージョナルな「共創」マインドが必要であり、日本でいうならばアジア圏を中心に地域横断的なコラボレーションを考えていく。


 市場の成熟度という点では、欧州ではOil&Gas事業は1970年代から発展している。
技術的な安全性やディベロッパーとコントラクターとの関係性といったものが、Oil&Gasの時代に十分に市場で造成されてきた。
その関係性をベースに風力発電周りがスライドする形で市場を形成したという背景がある。
日本には欧州圏の様な大規模事業者が無いので、今後風力発電事業に対して各事業者がお互いに協力して市場を形成していく必要がある。


 Q:韓国における洋上風力発電の進捗具合はどういった感じなのか?


A:先週視察を行ってきたところ、韓国において現在浮体式洋上風力発電を19GW計画している。
ベスタス等のメーカーが韓国国内で工場を開く用意をしていたり、オーシャンウィンズ(洋上風力事業(着床式および浮体式)の開発、建設と運転を行う合同会社)等の大手の企業がどんどんと進出している。
着床式の方に関しては、ある程度プロジェクトが進んでいる状況だ。


 浮体式においては、日本と韓国の間のウルサン地域(対馬の北側、釜山の北東の海域)において10GW以上のプロジェクトが進みつつある。
ただし電力事業許可は得たものの、漁業者の反対などによる手戻りから「すぐに進まない」もしくは「2030年までに進める」という見解が事業者ごとに分かれている状態だ。


 韓国側からすると、日本の様な堅実なボトムアップ式で事業を造成するやり方も評価出来るのではないかという見方もされている。
とはいえ韓国の場合は浮体式洋上風力発電に対するインセンティブを政府が用意している事もあり、風力発電市場に多くの企業が飛び込みやすい状態となっている。
インセンティブについてはRPS(Renewable Portfolio Standard)においてREC(Renewable Energy Certificate)が存在する。
計算方式が複雑な為、改めて財団の方でコラムとして発表したい。


 日本と大きく違うのは、外資100%でも事業権を与えてファイナンスをつけるという点だ。
サムソンやデウ、ヒョンデといった企業が擁する超大型の造船所もある。
それらの造船所から国際基準で作られたものを世界へ持っていくという段階にあり、日本に比べそういう点は進んでいる。
だが高価値な特殊船舶や大水深の掘削リグに比べると、洋上風力発電の浮体は旨味が少ない状況にある。
その為浮体を作るとしても、大手事業者直轄ではなくTier2や3辺りに位置するやや小規模な事業者になると見られている。


 Q:着床式の制度もどこまで提案された物が検討されているか分からないが、政府などが導入計画を主導するセントラル方式なども検討している中で、政府が作るロードマップに浮体式洋上風力発電を組み込んで欲しいという意欲の為に今回提言を行っているのか?


 A:この目標はあくまで「案件の造成」であって事業スタートではない事に注意して頂きたい。
また政府の野心的な目標として、総発電量が5.7GWというレベルに留まっている。
今回の提言については2035年までに「こういう量で運転すべきだ」という提案である。
2030年から2031年に関して、浮体式は「ファストトラック」として1GWの営業運転をするべきだと提示をしている。


 Q:長期で2050年までの目標を立てる場合、どういった指標を見ていけば良いのか?

 A:今回財団で提示したポテンシャルは「最低限の風と水深」をベースに算出している。
事業開始に際しては地域の合意を得る為に、漁業権や軍隊向けの海域を空けなければならない。
その為「当初予定された計画のうち、2割は実行に移せるのではないか?」という評価は楽観的な見方と考えていい。
陸上での風力発電について当初の計画の5割の実現率であった以上、その半分(2割5分)出せれば良いのではないかと考える。


 「仮に」具体的な目標値を出すなら発電電力総量の何割を再エネで出すのかという事でもある。
現状日本における年間電力消費量が1000TWhであり、2022年度の累積導入量は「63GW」という数値ではある。
2050年の必要電力の20%を洋上風力発電で賄うという試算であった。
しかし陸上風力や洋上風力の現状を見れば、この割合が変わっていく可能性は大いにある。
そして3年前の段階ではEEZという部分を展開エリアの思案に入れてはいなかったので、それを考えれば色々と発電量の見直しが必要である。


Q:ファストトラックについて。五島列島における風力発電事業が発電量15MWという事で洋上風力発電設備1基の発電量が2MW。
必要分の8基を作るのに2年ほど掛かっている。
今回30〜40基程作るという状況になると、その生産体制が整っているのかという点はどう考えているか?


 A:500MWであれば供給できるという風車メーカーは出ている。
というのも、世界におけるオーダー事情を見てみれば風車メーカーが請け負う現状最小のオーダーが「500MW発電に利用可能なタービン」である。
浮体に関しては造船所の余力を調査しており、国内での生産が困難となる場合は韓国などの第三国が協力先として必要になるかもしれない。
また浮体とアセンブル(合体)させる港はどうするかという話に対しても、実際に洋上風力発電事業の話が進めば、必要な内容として検討が進む事になる。
今求められている物として、具体的なロードマップ有りきのやり方以上に「市場を持ってきた上で事業を育てて広げていく」という概念が重要だと考えている。

 
(IRuniverse Ryuji Ichimura)

 

 

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