Americas Weekly2024#5リストラ、罰金、水資源枯渇 リチウム開発の暗部が目立つ米国
米国ではリチウムを巡る暗いニュースが立て続けに報じられている。リストラや企業統治の緩み、環境問題など、いずれも産業の根幹にかかわる問題だ。リチウム価格の下落とともに、しゃにむに進む時代から手堅さが求められる時代に入ったことを意味している。
米国の鉱山会社、ピードモント・リチウムは2月8日、従業員を27%削減したと発表した。リチウム価格の下落と電気自動車需要の減少を背景としたコスト削減計画の一環だ。第1四半期で大方のリストラ計画が完了するとされており、リストラにより年間約1000万ドル(約14億8000万円)の経費を削減できるとしている。
ピードモント・リチウムはカナダとガーナでリチウムの共同採掘事業に取り組んでいるほか、米国ではノースカロライナ州とテネシー州でプロジェクトを進めている。コスト削減がノースカロライナ州などのプロジェクトに影響を与えることはないと説明しているが、事業の遅れが懸念されている。
リチウム業界では、1月に世界最大のリチウム生産会社アルベマールが人員削減とプロジェクトの延期を発表している。一部報道では人員削減の規模は4%、約300人にのぼるとされている。
一方、韓国の電池大手SKオンの子会社であるSK・バッテリー・アメリカは1月17日、従業員を危険な環境で働かせたとして米労働省から7万5000ドル(約1100万円)の罰金を課せられたと発表した。
米労働省などによると、コバルトやニッケル、マンガンを扱う従業員を十分な安全管理を行わないまま働かせたという。6件の重大な安全操業違反があった。
SK・バッテリー・アメリカは26億ドル(約3848億円)を投じて、ジョージア州に2つのリチウムイオン電池工場を建設し、2022年から製造を開始した。フォードやフォルクスワーゲンに供給している。2つの工場では約3100人が働いている。
リチウムイオン電池工場の操業を巡っては、米ゼネラル・モータース(GM)と韓国の電池大手LGエナジーソリューションの合弁会社アルティアム・セルズが、27万ドル(約3990万円)の罰金の支払いを米労働省から求められていることが、2023年10月に明らかになっている。
オハイオ州の工場で3月に爆発火災があり、捜査の過程で19件の安全操業違反が判明した。労働者を金属の粉塵など化学物質にさらしたまま働かせたとされる。
米労働省は、前例のないスピードで急速に成長しているリチウムイオン電池産業では製造現場の安全性が二の次になっている、とみており、深刻な健康被害につながる物質を加工する労働現場への監視を強める方針だ。
リチウムの採掘現場の環境への影響にも、厳しい目が注がれている。公平な報道で知られる米PBS(公共放送サービス)の看板番組「ニュースアワー」が1月25日、米国内でのリチウム採掘が水資源危機を引き起こしているとの内容の特集を放送した。
水不足
アリゾナ州立大学の調査報道の研究機関であるハワードセンターの学生らが、全米のリチウム採掘予定地(1カ所は採掘中)を取材した。
リチウムを国内生産でまかなうことを目指す米国では、現在、カリフォルニア、オレゴン、ネバダ、アリゾナ、ユタ、ニューメキシコ、サウスダコタ、アーカンソー、ノースカロライナの9州、72カ所でリチウム採掘に向けた準備が進められている。
9州のうち6州は西部に位置しており、採掘予定地の多くがコロラド川など既に深刻な水不足に陥っている水源から大量の水をくみ上げようとしていることを指摘した。
コロラド川は米国の約4000万人の飲料水を供給しているだけでなく、米国のGDP(国内総生産)の12分の1を生み出しているといわれる。地球温暖化による流域の干ばつの影響で、水量が激減しており、過去20年で10兆ガロン(1ガロンは3.78リットル)が失われたとされている。
72カ所のうち唯一、既にリチウム採掘が行われているネバダ州のシルバー・ピークでは井戸が枯渇している。PBSのニュースアワーには、自治体からの要請で井戸を監視している水の専門家が井戸に石を落とすと、井戸の底でカラン、カランと音を立てている映像が流れた。この井戸はこれまでビル3階分の高さの水がたまっていたという。リチウム採掘場から約1.6キロの位置にあり、採掘が井戸の枯渇の原因とみられる。
番組では、鉱山採掘に当たって使用される水資源を管理するための連邦法や規制がないことを明らかにし、法的不備を指摘した。また、リチウムプロジェクトに参画している企業の多くが外国企業やその子会社であることを紹介し、水資源問題が軽視されかねない形でプロジェクトが進んでいると報じている。
(TaroYanaka)
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