Americas Weekly 28 NY州、市が相次いでリチウムイオン電池対策 知事「無謀なメーカーの責任を追及」
リチウムイオン電池が原因の火災が相次いでいることから、ニューヨーク市は火災の原因になりやすい粗悪な電動自転車やバッテリーの下取り制度をスタートさせる。エリック・アダムス市長が7月22日、記者会見して発表した。リチウムイオン電池による火災の危険性を市民に周知する広報活動に新たな予算枠を設けることとなり、「粗悪な電池」の包囲網が一段と強まる。
下取り制度はフードデリバリー(食品配達)に携わる労働者が対象となる。ニューヨーク市内には6万5000人以上の食品配達員がいるとされるが、そのほとんどがリチウムイオン電池を搭載した電動自転車を使用している。中古自転車や安価な未認定電池を使用しているケースが多く、充電中に電池が爆発し、ビル火災に発展することがしばしば起きている。
ニューヨーク市消防本部はニューヨーク市警察本部と連携し、粗悪なリチウムイオン電池を販売する電動自転車店などの摘発を進めているが、広く市内にあふれている未認定の粗悪な電池を回収するために、下取り制度を設けることにした。こうした制度を導入した自治体は、ニューヨーク市が全米で初だという。
申し込みが可能なのは、ニューヨーク市に居住する18歳以上の食品配達員で、デリバリー事業で前年に1500ドル(約23万5000円)以上の収入があることが条件となる。
普段の配達業務に使っている電動自転車とリチウムイオン電池と引き換えに、安全や品質の認証機関である米ULソリューションズの認定を受けた電動自転車1台とリチウムイオン電池2個を受け取ることができる。
食品配達員が丸1日業務に携わると電池は2個必要だとされていることから、受け取る電池の数を2個とした。
この事業についてのオンライン公聴会は8月22日に開かれ、下取りの申し込みは2025年初頭に開始する予定だ。ニューヨーク市では下取り事業に200万ドル(約3億1400万円)の予算をつぎ込む。
粗悪なリチウムイオン電池の危険性を周知する広報活動には、100万ドル(約1億5700万円)の予算が付けられた。このうち75万ドル(約1億1775万円)は地下鉄やバス、オンライン、新聞などの意見広告費用だ。英語など10カ国語で火災の深刻さを訴えるとともに、リチウムイオン電池の適切な使用を促す内容だ。リチウムイオン電池による火災の発生率が高い地域に集中的に広告を掲載する方針だ。
また、ニューヨーク市交通局は、商業ビルの前の歩道などにリチウムイオン電池の充電装置を設置しやすいようにルールを変更することを検討している。ビルのオーナーが設置を希望した場合、煩雑な手続きをせずに迅速に承認する態勢を整えるという。
アダムス市長は「安全なリチウムイオン電池を値ごろ感のある価格で入手できるようにしなければならない。また、多くのニューヨーク市民に、認定されていないリチウムイオン電池が時限爆弾であることを認識してもらうようにする」と話し、広範な取り組みの必要性を強調した。
ニューヨーク市では2019年以来、リチウムイオン電池による火災は733件発生し、29人が死亡している。このうち2023年は発生が268件、死亡は18人と増加傾向にある。
一方、ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事は、電気自転車やリチウムイオン電池の安全性を強化するための8つの法律に署名した。
新法では、認証基準に達していない粗悪なリチウムイオン電池を販売した業者に州当局による罰金が課せられる。初めての違反の場合、罰金は500ドル(約78500円)だが、2回目以降の違反は1000ドル(約15万7000円)に増額される。
販売業者には、リチウムイオン電池を購入した顧客に電池の取扱説明書を渡すことが義務付けられた。
捜査、行政機関に対する規制も強化された。電動自転車やスクーターが事故を起こした場合、捜査や事故処理にあたった警察に、当該の車両の情報を州の陸運局に報告することを義務付けた。
ホークル知事は7月11日に法律に署名した。署名後、ホークル知事は「新しい法律は無謀な電池メーカーの責任を追及し、電動自転車の扱い方法についての市民の意識を高め、火災現場に到着した消防士を保護することになる」と述べた。
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Taro Yanaka
街ネタから国際情勢まで幅広く取材。
専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。
趣味は世界を車で走ること。
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