脱炭素の部屋#185 2035年、75%削減がもたらすインパクト
脱炭素に関わる政策発信機関として注目されるものの一つに、多くの主要企業が参加する「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)」があります。この企業グループがこの7月に、対13年度比でCO2排出量を75%以上削減する目標を求める提言を出しました。
菅前首相の時代に、「2030年までに対13年比46%削減」という目標が決められましたが、そこから5年でさらに75%まで踏み込むという提言は、かなり前向きなものだということができます。あるいは野心的、と言った方が当たっているのかもしれません。他方でJCLPの方はいたって真剣な様子です。
9月13日の日刊工業新聞に掲載された特集記事によると、「輸入に頼る化石燃料への依存を減らして再生可能エネルギーを増やせば、15兆円以上を国内に還流することができるとの試算もある」「設備を国産化できればさらに国益が増進する」等のメリットに加え、安価なグリーンエネルギーの確保がこの先の日本にとって産業適地として生き残るための絶対条件である、との考えが前面に出ています。
気候変動への積極的な対応は、ビジネスにとって言わば一挙両得であるというこの主張は、数年前までに比べてかなり説得力を持つものになってきたように感じます。他方で実績値のみをトレースすると、日本経済の化石燃料依存度は東日本大震災以降、それまでの約8割から9割近くへと、むしろ増加しています。とは言え今後の需給予測においては2030年までに6割、2040年までに4割まで低減するとされており、JCLPの意見と表裏一体をなすものであると言えそうです。
https://www.jaif.or.jp/information/weo2023
この流れを受けて確実に加速されそうなのが、①ペロブスカイト型太陽電池に代表される国産新技術の普及、②耐用年数を超過した太陽光発電設備の適正リサイクル、③給配電網における再生エネルギーの受け入れ態勢整備、または直流送電網など再生可能エネルギー活用のためのインフラ整備であろうと考えられます。他方で、①風力発電装置の国産化、②地熱発電等、他の再生可能エネルギー開発などは、現段階ではまだその帰趨がはっきりしないと言えるのではないでしょうか。
風力発電装置については、①国産技術の強みがはっきりしない、②メンテナンスを含めて輸入品の使用に大きな阻害要因がない、③実績的には輸入品が市場を圧倒しているのが現状であり、それを大きく変える要因が見当たらない以上、予測可能な将来において国産化が進むとはなかなか想定しづらい面があると思います。
地熱発電も同様に、メンテナンスに関わるランニングコストや設備寿命など、経済性の面でどうしても取り上げづらいところがあると言われています。それならそれで、①太陽光発電についてはペロブスカイト型をベースとした国産化と導入促進のための政策の充実を、②風力発電についてはメンテナンス体制の強化による施設の長寿命化を柱とした長期的な能力増強を進めることと併せて、③地熱発電の事業性改善につながる技術開発を進めるということになるのではないかと思われます。
JCLPの提言は、政府に対してこのような政策的方向性の明確化を求めるもの、と解釈できそうです。新しい総理大臣が決まり、取り組みの骨格が見えてくる来月にかけて、この分野についてもまた議論が活発化するものと思いますが、これまでより踏み込んだ目標が掲げられることになるのか、ぜひ注目したいところです。
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西田 純(オルタナティブ経営コンサルタント)
国連工業開発機関(UNIDO)に16年勤務の後、コンサルタントとして独立。SDGsやサーキュラーエコノミーをテーマに企業の事例を研究している。国立大学法人秋田大学非常勤講師、武蔵野大学環境大学院非常勤講師。サーキュラーエコノミー・広域マルチバリュー循環研究会幹事、循環経済協会会員
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