負極材料の専門家が見たバッテリーサミット! RSテクノロジーズ、エマルションフローテクノロジーズ

前回のノリタケ編に続き、負極材料の専門家が見た第10回バッテリーサミットの模様(RSテクノロジーズ、エマルションフローテクノロジーズ編)を紹介する。
関連記事:負極材料の専門家が見たバッテリーサミット! ノリタケ編
■再生エネルギー用大規模定置型蓄電池にバナジウムレドックスフローバッテリー(VRFB)への普及拡大を目指す
株式会社 RSテクノロジーズ 経営企画室 担当部長 田中 利朗氏
VRFBの世界と日本での研究および商業化の歴史を比較することから始まった。日本では、発電所の燃焼煤からバナジウムを抽出して電解液を製造し、蓄電池セルスタックを中心とした蓄電池システムを開発している。世界では事業化が進んでいたが、日本では2000年頃に一旦停滞した。しかし、2010年代以降、「大規模定置型蓄電池」の需要が高まり、再び注目を集めている。VRFBは高い安全性と長寿命を持ち、風力や太陽光発電用の長時間充放電定置型蓄電池に最適である。
VRFBの普及には導入コストおよび設置面積が最大のネックとなっていたが、各メーカーの競争により電池価格は下がり続け、リチウム電池とほぼ同等の価格となっている。また、設置面積の問題もリチウムイオン電池と比較した事例で、占有面積の差がなくなってきていることが紹介された。
調査レポートや中国市場の動向を引用し、次世代電池の中でVRFBの導入拡大が今後大きく進むと予測される成長予測が紹介された。米国でのLiB火災や日本でのVRFBの高い安全性・長寿命による採用事例も紹介され、定置型蓄電池は長時間容量用途蓄電池として、今後導入が進むと予測されている。
RSテクノロジーズの子会社LEシステムは、VRFB用電解液の製造・販売およびVRFBの提案・運用を行う会社であり、2021年に福島県浪江町に日本国内随一の規模を誇るVRFB向けの電解液製造設備を保有している。
VRFBはバナジウムの価格変動により製造コストが変動することが課題とされているが、高い安全性と長寿命により、今後大きな市場成長が期待される大規模定置型蓄電池への普及拡大が期待される。
■原子力研究から生まれた新規溶媒抽出技術「エマルションフロー」をリチウムイオン電池のリサイクルに活用、レアメタルの完全循環型社会を実現
エマルションフローテクノロジーズ 事業開発部長 江 達氏
株式会社エマルションフローテクノロジーズ(EFT)は、日本原子力研究開発機構における約30年間の原子力研究から生まれた新規溶媒抽出技術「エマルションフロー」を活用した事業を展開するベンチャー企業であり、2021年4月5日に設立されました。エマルションフローは、従来の溶媒抽出技術に比べて、低コストで高効率に高純度な元素分離を可能にする革新的な技術です。EFTは資源循環事業として、LIBなどに含まれるレアメタルを低コストで高純度に回収する技術を確立しています。
講演では、まずEFTの会社紹介が行われました。EVの爆発的普及により2025年頃からレアメタルの供給不足が顕在化すること、レアメタルのサプライチェーン強化が社会課題となっている中、レアメタルの地上資源を未来永劫使い続ける完全循環型社会の実現がEFTのミッションであると話されました。
次に、エマルションフロー技術の特長として、従来の溶媒抽出技術である「ミキサーセトラー」法と比較して、①プラントのコンパクト化、②高い濃縮性能、③高い油水分離能を有することが挙げられました。LIBリサイクルの事例をプロセスの図で分かりやすく説明いただきました。最後に、ミキサーセトラーと比較した抽出性能の説明があり、高い抽出率が具体的に示されました。
また、2025年以降の販売開始を目的とした設備大型化のプロセスおよびプラント開発が計画的に進められており、2025年より1号プラント建設を開始し、2026年後半より稼働開始を予定しています。
今後、LIBリサイクルの世界市場規模は大きく成長すると予測されており、ビジネスプランとして、地域ごとに小規模拠点を設ける多極分散型の展開を図ります。規制や制度助成が進む欧州、米国、インド、産業促進を図る韓国を優先エリアとし、並行して日本国内での市場立ち上げに対応し、将来的にリサイクル需要の拡大が見込まれるアジア地域への展開を目指します。
講演の最後には、環境ソリューション事業として、PFAS(炭素とフッ素の結合を持つ有機化合物)の回収・リサイクル技術が紹介されました。
LiBリサイクルにおけるエマルションフロー技術の詳細から事業戦略に至るまで、非常に豊富な内容を聴講でき、大変興味深いご講演でした。
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