インド鉄鋼業界、脱炭素化の重大課題に直面と鉄鋼部長ネハ・ヴェルマ氏が表明
【ニューデリー発】インド鉄鋼業界は、国全体の二酸化炭素排出量の12%を占めており、脱炭素化という大きな課題に直面している。鉄鋼省のネーハ・ヴェルマ主任によれば、現在インドでは粗鋼1トンあたり2.54トンの二酸化炭素が排出されており、これは世界平均の1.91トンを大幅に上回る。
ヴェルマ氏は、鉄鋼業界が石炭に依存しているため「排出削減が困難な分野」であると指摘。彼女は「鉄鋼は我々の生活に欠かせないが、その排出は容認できない」と述べ、厳しい状況を強調した。しかし、インドの鉄鋼生産量は2030年までに現在の1.7億トンから3億トンに増加する見通しであり、その成長は持続可能性を重視したものとなる予定。インド政府は2030年までに1トン当たりの二酸化炭素排出量を2.54トンから2.2トンに削減することを目標にしているが、その達成には技術、資金、構造面での多くの課題が存在。
短期突破口:エネルギー効率の向上とグリーンエネルギーの活用促進
短期的な打開策としては、エネルギー効率の向上と再生可能エネルギーの利用拡大が鍵とされている。インドの鉄鋼業界におけるエネルギー消費は世界平均を上回っており、効率の向上は12%以上の排出削減とコスト削減をもたらす可能性がある。ヴェルマ氏は、現在鉄鋼業界における電力供給の7%しか再生可能エネルギーから供給されていないが、これを50%に引き上げることで、排出量を10%から12%削減できると強調。
循環型経済への貢献:スクラップ鋼の活用促進
循環型経済の観点からは、スクラップ鋼の使用増加が排出削減に有効な手段とされている。現在、インドの鉄鋼生産におけるスクラップ使用率は21%であり、これは世界平均の31%、米国の65%と比較して低い水準。ヴェルマ氏は、スクラップ鋼の利用を増やすことで、1トン当たりの排出量を0.5トンに抑えることができると述べ、鉄鋼省は国内のスクラップ供給とリサイクルの向上に取り組んでいる。
将来の解決策:グリーン水素とカーボンキャプチャ技術
長期的な解決策として、グリーン水素とカーボンキャプチャ技術が注目されている。ヴェルマ氏によると、グリーン水素は鉄鋼生産において炭素を完全に置き換える可能性があるが、現時点では1キロ当たり5~6ドルの高価格が障壁となっている。また、カーボンキャプチャ、利用、貯蔵(CCUS)技術は、石炭ベースの生産プロセスから最大50%の排出削減が見込まれているものの、高い導入コストが課題。
政策の推進:政府の支援が鍵
政策面では、政府の支援が鍵となるとされている。鉄鋼省は「グリーンスチール」基準を策定中であり、公共インフラプロジェクトにおいて一定割合のグリーンスチール使用を義務付ける公共調達政策の導入を予定。ヴェルマ氏によると、公共プロジェクトで20%のグリーンスチールを使用すると、コストは1.1%の増加に留まるが、環境への効果は大きい。
ヴェルマ氏は、インドの鉄鋼業界は脱炭素化への道のりで多くの課題に直面しているが、技術革新、資金支援、政策の整備が進めば、気候目標を達成できる可能性があると強調。道は険しいが、技術、資金、政策の調和があれば、目標達成は可能であると述べた。
(IRuniverse, Kasumi)
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