【年末企画 レアメタル・レアアース2024年重大ニュース】資源争奪が先鋭化、輸出規制応酬
2024年のレアメタル・レアアース業界は悲喜こもごもだった。まず、資源争奪の動きを背景に、レアメタル分野で西側諸国と中露勢との対立が先鋭化した。コバルトやリチウムの価格が低迷し、企業にも影響が拡大した。一方で南鳥島沖には大型のレアアース資源が発見され、列島が沸いた。MIRU共催の「国際レアアースシンポジウム」も盛況だった。
1位 世界各国が資源争奪、米中がレアメタル輸出規制
米中の輸出規制をはじめ、欧州連合(EU)やカナダも参戦しての中国製品や投資の制限、主要7か国(G7)での重要鉱物安全保障への言及など、世界各国の国々のレアアース・レアメタルの囲い込みの様相が強まった。
米中間でレアメタル貿易を武器化する事態が相次いだ。中国は9月15日からアンチモンを輸出規制の対象に加えた。12月にはガリウム、ゲルマニウム、アンチモンの対米輸出を禁止し、黒鉛(グラファイト)の使途調査を厳格化した。ロシアもチタンやニッケルの輸出規制を示唆した。一方、米国は12月に中国産タングステンなどの輸入を規制。米国の動きにカナダや欧州が追随した。
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2位 輸出規制、対象鉱物の価格はまちまち アンチモン急騰、ガリウムは小幅安
中国の輸出規制を背景にアンチモンやゲルマニウムの価格が急騰した。ただ、ガリウムのろうばい的高騰は一服し、球状黒鉛(グラファイト)は値動きがないなど、輸出対象となった鉱物も明暗は分かれた。加工技術が輸出禁止になったレアアース価格も下落した。
3位 「国際レアアースシンポジウム」開催
IR Universe(MIRU、弊社)とREIA(国際希土類産業協会)、JOGMEC.は6月19-20日、虎ノ門ツインタワー(東京・港)で「国際レアアースシンポジウム」を共催した。
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4位 南鳥島沖にレアアース資源
日本の排他的経済水域(EEZ)小笠原諸島にある南鳥島(東京都)沖で巨大なレアアース資源が発見された。6月20日の国際レアアースシンポジウム」では、6月21日の公式発表に先立ち、東京大学工学部長の加藤泰浩教授から報告があった。
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5位 EV失速、多様な金属に影響
韓国調査会社のSNEリサーチが12月10日に4発表した2024年1-10月期の電気自動車(EV)販売台数は23.1%増と2023年までの5年間の年平均伸び率(45.7%)を下回った。車載電池企業の経営悪化が目立ったほか、車載電池材料の供給過剰も意識された。価格の高いレアメタルを使用した電池を避ける動きも広がった。
1-10月期の世界の自動車販売
(出所:SNE Reserch)
6位 リチウムやコバルト値下がり、企業も相次ぎ事業縮小
中国の生産過剰と世界のEV販売の失速を受け、供給過剰からリチウムやコバルト価格が下落した。リチウム価格の下落に伴い、生産会社の減産や撤退が相次いだ。特に人件費や光熱費といったコストが高いオーストラリアでの事業縮小が顕著だった。
7位 資源国、「下流化」志向強める インドネシアやベトナム、加工業に中国勢進出も
資源国各国は過去に先進国から搾取された歴史を持つ国が多く、先進国が資源争奪を進める中で再度の搾取を警戒する国が多い。さらに、鉱物資源への注目の高まりを国の発展に利用しようとの機運も強く、単純な資源輸出国から工業立国への転換、いわゆる「下流化」を目指す動きも強まった。
具体的にはインドネシアのように鉱石輸出を禁止または制限して加工業の振興に振り向ける動きが強まった。同様の動きはベトナムやマレーシア、アフリカではウガンダなどにも広がる。その加工業に中国資本が入り込むケースも多くみられる。
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8位 中国が環境査察を実施、タングステンなど急騰
中国生態環境省(環境省に相当)は5月中旬から6月中旬にかけて、鉱山などを対象に環境査察を実施した。これに伴い、中国国内ではタングステンやゲルマニウム、ビスマスなどの採掘企業の一部が操業停止や減産に入り、終了後も再開が遅れるケースがあった。中国国内の供給ひっ懸念から鉱石価格が一時急伸した。
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9位 ミャンマー内戦深刻化、レアアース輸送が停滞
ミャンマーで内戦が深刻化し、鉱山活動にも影響が出た。10月には少数民族武装勢力であるカチン独立軍(KIA)がレアアースやヒスイの生産地を占領。中国が国境ゲートを閉ざし、輸送が停止した時期があった。
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10位 鉱山M&Aが活発化、安全保障目的での政府介入も
リチウムなどレアメタル価格の値下がりで資源大手の一部は経営が苦しくなり、他社からの買収の標的になりやすくなった。10月には英豪資源大手のリオ・ティントがオーストラリアのアルカディウム・リチウムを買収した。
ただ、米中デカップリングが先鋭化する中で、企業の買収案件に国家が介入するケースも増えている。カナダのバイタル・メタルズは中国企業からの出資について、国家安全の観点からカナダ政府の認可が下りず断念した。豪ノーザン・ミネラルズも、豪政府の介入で中国企業による乗っ取りを免れた。
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(IR Universe Kure)
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